アイツの誕生日と俺の恋心

高校一年の頃の和哉の誕生日話。
まだ小木津が和哉の事を「綾」と呼んでいる頃。
和哉は事情があって最初野球と決別しており、2年の5月にようやく野球部に入ったので、この頃の和哉はまだ髪も長めで小木津と一緒にアルバイトもしてます。
※和哉の「事情」が気になる方は、ぜひとも既刊「YELL!!」を読んでね☆(CM)

「なぁ、今日バイト終わったらメシ食って行かね?今日ウチ誰もいないんだよ」

アルバイトに向かう途中、小木津は和哉を夕飯に誘った。
国際線のパイロットとキャビンアテンダントという両親を持つ小木津の家はいつも留守がちなので、よく和哉を誘って食事を済ませて帰っていた。
小木津には双子の姉がいるが、今日は向こうも食事を済ませて来るとメールが入っていた。
どのみち今日は絶対に和哉と外食しようと思っていたので、食事当番で姉と喧嘩する事もなく事が進み、これはラッキーとしか言えない。

「うん。じゃぁ家に連絡しておく」

笑顔で頷くと、和哉は携帯で家にメールを打ち始めた。
その様子を小木津は笑顔で見守った。

***

コンビニでのアルバイトを終えると、二人は駅前のファミリーレストランに入った。
そしてメニューを注文しウエイターが去ると、小木津はカバンの中から綺麗に包装された箱を和哉に差し出した。

「はい、これ」
「え、何? 俺に??」

首を傾げながら受け取る和哉に、小木津は得意げに微笑んだ。

「綾、今日誕生日だよな。おめでとう。それ俺から誕生日プレゼント」
「えぇっ?」

やった! サプライズ大成功☆

驚いている和哉を前に、小木津はテーブルの下でこっそりガッツポーズを決めた。
今日2月23日は和哉の誕生日。しかも和哉と知り合って初めて迎える誕生日だ。
この日のためにこっそりプレゼントも用意した。
だから絶対今日は和哉と食事をしたかったのだ。

「え、でも小木津なんで知ってるの? 俺言ったっけ?」
「え?!」

にやにやしながら和哉を眺めていた小木津だったが、和哉のその一言で、笑顔が一瞬固まった。

――やべ、そう言えばそうかも!

よく考えると、直接和哉に誕生日を聞いたことはなかった気がする。
入学してしばらくした時、学校に提出する何かの書類をチラ見して、和哉の誕生日を知ったのだった。
忘れないように、慌てて生徒手帳の巻末カレンダーに○を付けた記憶が蘇る。

「お、お前教えてくれたじゃんか〜。ホラ最初の頃」

しかしそんな経緯で知り得た情報だと言うわけにもいかず、小木津は適当に言い訳を口にし、曖昧に笑って誤魔化した。

「え、そうだっけ?」
「そうだよ。だから、ホラ開けて見ろよ」
「あ、うん」

首を傾げる和哉に、話を変えようと小木津はプレゼントを早く開けるよう促した。
そんな小木津の気持ちなど知る由もない和哉はビリビリと豪快に包装を開け始めた。

「お前、意外と大胆に開けるタイプなんだな」

思わず笑ってしまうと、和哉はハッとして手を止め顔を上げた。

「あ、ごめん! こーゆーのって綺麗に開けるんだっけ。つい癖で……」

慌てて中央を破った包装を丁寧に畳み直す。

「いや。別にいいんじゃん? なんか面白いなって思っただけだから気にすんな。大事なの中身だし」
「そう? よかった」

にっこりと微笑みながら小木津がそう言うと、和哉はホッとして、再び包装紙を破き中身の箱を取り出した。
和哉はいつも自分の言葉を素直に受け止めてくれる。

――綾といると、なんか幸せな気分になるなぁ。

頬杖をつきながらそんな和哉を見つめて、小木津はそう思った。
性格も好みもまるで自分と正反対。正直和哉のようなタイプの友達は初めてだ。
それなのに、和哉と一緒にいても全く苦を感じない。
和哉が控えめな性格だというのもあるが、意見が違っても、考え方が違っても、「そういう考え方もあるのか」と考えさせられ、きちんと話し合えるし喧嘩にならない。
そして和哉の笑顔には、ほんわかと心を和まされる。

――……それだけで収まんねーんだけどさ、最近は。

「あ、これ……お前の持ってる財布と同じヤツ?」

取り出したプレゼントを見て、和哉がまた目を丸くした。

「そ。俺の財布かっこいいって言ってたからさ。でもお揃いっつーものアレだから、イロチで探したんだ。それ、お前に合いそうな色だろ」

驚く和哉に小木津は、そう得意げに言った。
いつも和哉は小木津の財布を見て「かっこいいな〜」と呟いていた。
アルバイトを始める際にも「バイト代貯まったら財布買おうかな」と言っていた。
親から入学祝いに貰ったものだけど、ブランドもので確かにかっこよくて自分でも気に入っている。
だからずっと小木津は、和哉の誕生日プレゼントには財布をあげようと心に決めていたのだ。
これなら絶対喜んでくれると確信があったから。

「うん、確かにかっこいいけど……でもこれ高いんだよね? 俺こんな高価なの……」
「いいって、いいって。親友の誕生日だもん。これくらい安いって」
「でも……」

プレゼントが重荷にならないようにへらへらと軽く笑うが、和哉は真新しい財布を眺め、困ったように眉を下げている。
一応ブランドものだし、それなりの値段がする事を和哉も知っている。
1ヶ月分のバイト代がポーンと飛んで行くような値段なので、先に和哉に財布を新調されなくて済んだが、それゆえに和哉が躊躇うのも当然だった。
友達への誕生日プレゼントにしては値が張りすぎる。
でもそれでも小木津はこの財布を和哉にプレゼントしたかったのだ。

「あ、もしかして俺とイロチとか嫌だった? やっぱお揃いなんてキモイかな?」

どうしても受け取って貰いたい小木津は、和哉が値段ではなく「自分との色違いを持つこと」に戸惑っているんだと解釈しているように、苦笑いを浮かべてみた。

「いや!そんな事ねーよ!お前の財布かっこいいなっていつも思ってたからすげー嬉しいよ!!……ただビックリして……」

しかし予想通り、和哉はそれを慌てて否定してくれた。
和哉がそういうのを気にするタイプではないことを知った上での、あえての演技だった。
「嬉しい」と言ってもらえれば、受け取る方向で話を進められる。

「じゃーサプライズ成功? やったね」

和哉の言葉を素直に受け取った小木津がにっこりと微笑むと、

「じゃー、ありがたくもらうよ。ありがとう。……大事にするな」

和哉も受け取る事を決め、ハニカみながらそうお礼を言いうと、プレゼントされた財布を嬉しそうな笑顔で見つめた。
その財布を見つめる優しい笑みに、思わず小木津の胸がドキっと鳴る。

――うわ、やばっ。
 
思わず和哉から目を反らした。
はーっと深呼吸をして気分を落ち着かせると、もう一度和哉を見る。

「やっぱかっこいいなぁ〜。なんか大人になった感じ」

和哉は嬉しそうに満開な笑顔で、新しい財布を開けたり閉めたりしている。
それだけの、何気ない仕草なのに小木津の胸はキュンと締め付けられた。

――なんなんだよ。俺やっぱおかしいのかも……。

最近小木津は和哉の笑顔や仕草が、とてつもなく可愛く見えてしまう時が多々あり、その度戸惑っていた。
別の財布ではなかなか気に入るデザインのものが見つからず、同じ財布をあげようと決めた時も、「お揃い」という言葉に今までにない高揚感を覚えた。
二人でお揃いのものを持ちたい、と思ってしまった。
それでもさすがにお揃いは寒いかな、引かれるかなとさんざん悩んで色違いを見繕ったのだが、今まで付き合ってた彼女とでさえそんな気持ちを持った事はなかった。
逆にお揃いを持つなんて恥ずかしいし、嫌だと思っていたくらいなのに。

「あ、小木津来たよー」

頼んだメニューが運ばれてきて、貰った財布を大事そうに丁寧にカバンにしまうそんな仕草でさえ、嬉しくなる。

――これからあの財布を綾が使う度、もしかして俺毎回こんなにドキドキすんの? 心臓もたねぇぞ……。

はぁ……と小さくため息を吐く。
毎日使って欲しいという思いもあってのセレクトだったのだが、こんな気持ちが襲ってくるなんて完全に想定外だ。
もう認めざるを得ないところまで来ている。
必死で気付かない振りをしていても、和哉への想いはどんどん大きくなっている。

――このままじゃマジでやばいよな……。

「あ、なぁお前の誕生日教えてよ」
「え、俺?」

そんなことを考えていると、オムライスを頬張りながら、和哉が言った。

「いや俺、別にお前に何かして欲しくてプレゼントしたわけじゃねーよ」
「わかってるよ。でも俺だってお前にプレゼントとかしたいよ。俺があげたもの、お前にも使ってもらいたいな。そういうのってなんかいいよね。で、いつなの?」
「っ!」

危うくライスを喉に詰まらせるところだった。

――俺が言いたくても言えない事をコイツはもう……

自分があげたものを相手に使って貰いたい――ごく自然に、本当にナチュラルにそう言う事をさらっと言ってしまう和哉。
時折投下される和哉の天然の爆弾によって、小木津の心はますます和哉に支配されていく。

「7月だよ。7月14日」

そんな動揺をジュースを飲んで隠す。

「7月ぅ?なんだよ、過ぎちゃってんじゃん!教えろよなー」
「悪ぃ悪ぃ」
「クリスマスもさー、突然プレゼントとか言って手袋くれるし。いっつも俺貰ってばっかりでさー、ずりぃよ。俺もお前に何かあげたい!」

不満そうに唇を尖らせながら、和哉が訴える。

「悪かったって。7月期待してるからさ」
「よし! じゃーそれまでに欲しいもの考えておけよ」
「欲しいものねぇ……」

――お前、って言ったら綾……お前どうする?

心の中でそんな事を呟きながら、

「ん、わかった」

和哉には笑顔でそう答えた。
「俺ら親友じゃん」と強引に和哉の「親友」を名乗ったのは自分から。
和哉もそれを受け入れてくれて、和哉にとって小木津は初めての「親友」となった。
だから和哉にとって特別な存在である「親友」であることに不満はないけれど。
不満はないが物足りない。

――何考えてんだよ……もう完全にクロじゃん、俺。

もう認めないとならない。
親友以上の関係になりたいと思っている。
でも来年も再来年もずっと一緒に、こうやって向かい合って誕生日を祝いたいから。
和哉を失いたくないから。

「綾」
「ん?なに?」

この気持ちは絶対に隠し通す。

「誕生日おめでと」
「さんきゅ」

和哉の笑顔を見ながら小木津はそう心に誓った。





(↑初披露? 髪切る前の和哉君です/イラストページにもUPしてます)
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