ロマンスの神様

FEVERの続きというか、後日談的なお話。
圭吾1年、佐和ちゃんは2年生。
まだ圭吾には恋愛感情はないはずなんだけど、圭吾さんの本気度に自覚症状がないだけでは?という感じになった(^^;
しかし、約半年後にこの二人があーなってしまうと思うと、ここの神様って凄いなと。奮発したかいがあってよかったね。


朝からずっとウキウキしていた。
部活始めの日だからじゃなく。

「さすがにもう人はいませんねー」
「もう4日だしな」

真新しいしめ縄が唯一正月らしさを醸し出しているが、年が明けて4日も経つせい、ひっそりと佇むこの神社には俺と先輩だけで他には誰もいなかった。
年明けの瞬間はなんとか一緒にいられたが、うっかり風邪を引いてしまって初詣はお預け。
去年からずっと楽しみにしていた先輩との初詣デートが、今日やっと実現したのだ。

「先輩、早くお参りしちゃいましょ♪」
「はいはい。わかったよ」

参道をゆっくり歩く先輩の腕を掴んで引っ張ると、先輩は面倒くさそうな返事をして付いてきた。
なんだろ、なんかすげー楽しいっ。
さすがに手を握るのはキモいかと腕を取ったけど、先輩の手を引きながら静かな境内を歩くなんて。
今まで先輩と二人っきりで出かける事なんてなかったから、そりゃーテンションもあがるってもんだ。

ウキウキしながら財布から取り出したお賽銭を入れると、先輩が目を丸くした。

「え?! 札??」

まぁ、小銭じゃないから驚くのも無理はない。
それだけ今年は気合を入れているわけで。

「はいっ今年は奮発しました!」

そう答えて鈴を鳴らすと、先輩も慌ててお賽銭を投げ入れ、一緒に手を合わせた。
そして丁寧に祈願する。

「お前やけに念入りに祈ってたなー」

具体的に細かくお願い事を言っていたら、だいぶ先輩を待たせたらしい。
ふーっと顔を上げると、先に祈願を終えていた先輩が呆れた顔で呟いた。

「まぁ大方、正捕手になれますようにーとかだろ?」
「違いますよー。そんなの神様にお願いしたところで実力が伴ってないと叶うわけないし、そこは自分の力で頑張りますよ」

必勝祈願は幸運も必要だが、レギュラーを勝ち取るのに偶然やラッキーは関係ない。
そこは完全実力の世界だから、お賽銭を奮発してまで神様にお願いする事ではないと思っている。
まぁ神様に頼みたい気持ちは山々だけど。

「へぇ〜意外。お前イイコト言うじゃんかっ」
「えへへ。そうっすか?」

しかし先輩に笑顔でそう言われて背中をバシッと叩かれると、嬉しくなった。
一瞬お願いしかけたのは秘密にしておくことにしよう。

「でもじゃぁ何をそんなに祈ってたんだ? お賽銭、アレ5千円だろ?」

お札の色で金額を知った先輩は、不思議そうな顔で覗きこんできた。
「先輩とバッテリーになる」「正捕手になる」以外の、5千円もの大金をつぎ込んだ願い。

「えへへー」
「なんだよ、気持ち悪ぃ」

言うと絶対呆れられると思ったけど、聞いた先輩がどんな顔をするだろうという好奇心に負けた。

「先輩ともっと仲良くなれますようにって」
「はぁ?」

予想通り、目を丸くきょとんとした顔をした。

「だってこれは俺の力だけじゃ無理だもん」

入部当時から考えたらかなり近づいたと思うけれど、充分先輩の近くにいると思うけれど、まだ足りない。
何が足りないのかと、具体的にどういう関係になりたいのかと聞かれると答えに困るくらい自分でもよく分からないけれど、とにかくもっともっと先輩と仲良くなりたいと思う。
でも自分がどう頑張っても、先輩が俺を嫌ってしまったらそこで終了してしまうから。
こればっかりは神様の力に頼るしかないというわけで、もらったお年玉から奮発して5千円を投資したのだ。

「お前ばっかじゃねーの?! そんな額神様にやるなら直接俺にくれた方がいいじゃねーか」

しかしそれを言うと先輩は心底呆れた顔をしながら、予想外の事を言い出した。

「いやいや先輩……それって完全にお金目当てじゃないですか」
「お賽銭の金額でやる気が変わる神様なら、同じようなもんだろ」
「えー? なんかそれ間違ってる気がしますけどぉ」

そりゃぁこの願いが叶うかどうかは本人(先輩)次第には違いないけれど。
神様に頑張ってもらいたくて、お賽銭奮発したのは確かだけど。
なんかそれって、身も蓋もなくない?

「という事で、お前の奢りでラーメン食って帰ろうぜ」

呆れる俺に、先輩は何故か嬉しそうに笑うと、そう言って出口に向かって歩きだした。

「えっ? なんで?!」
「わざわざこんなとこまで一緒に来てやったろ? あと俺へのお賽銭代わりって事で」
「えー、じゃぁラーメン奢れば俺の願い叶うんですか?!」

ラーメン云々はこの際どうでもいい。
お賽銭代わりだなんて言うから、うっかり先輩が俺の願いを叶えてくれるつもりがあるのかと思ってしまった。

「はぁ? そんな安くねーよ。あと、言っておくけど俺にその気(け)はねーから、その願いが叶う事はないぞ。無駄だったな、5千円」

しかし、そんなに甘いわけがない。
その答えに脱力したのと同時に、胸の奥の方でほんの少し何かがチクンと痛んだ。

「俺だってないですよっ。そういう意味じゃなくて……って、でもそれなら奢っても無駄って事じゃないですか」

――が、なんとなく気がつかない振りをしてしまった。

「まぁまぁ。あ、来々軒やってるかな? あそこ行こうぜ」

不意に振り返って、にっ、と悪戯に笑う先輩にドキッとする。
そんな先輩を見るたび、もっと近づきたいと思うんだ。
ただの後輩じゃなくて――友人?親友?どれもピンとこないし、結局何になりたいのかわからないけれど、とにかく「ただの」ではないものになりたい。
それは正捕手になれば答えが出るのだろうか?

「……やってますよ。昨日開いてるの見たんで」
「おし!じゃーソコ行こ♪」

とにかく。
もう神様でも先輩でもどっちでもいいから。
必要ならいくらでも投資するから。
だから、絶対に絶対に「ただの」後輩からランクアップさせてください。


何になるのかはいっそお任せますから――マジでよろしくお願いしますっ!
ありがとうございました! よろしければ拍手・一言感想などいただけたら嬉しいです♪