「お、お帰り……」
部活を終えた午後4時――いつものように朋久は玄関まで出て蓮を笑顔で迎えたが、それが今朝のものと違っているのは蓮にもわかった。
「……メシ出来たら呼んで」
イヤな予感がした蓮は、いつもは一旦リビングに行き一息吐いていたが、今日はまっすぐ自室に向かった。
「あ! あのさ、蓮」
階段を昇る途中、朋久に声を掛けられるが、
「今朝の話……なんだけど」
「言った通りだよ。クリスマス終わったら帰れ」
そう一言言って、蓮は逃げるように階段を駆け上がった。
しかし、
「蓮! 待てよっ! ちゃんと話しようって」
蓮が部屋に入ると、ドアを閉める前に追いかけてきた朋久に部屋に入られた。
「入ってくんなよ! もう話す事なんてねーだろ。俺ら終わったんだから!」
追い出そうと朋久の体を両手で押すと、逆にその手を朋久に捕まれた。
「だから、なんでそんな話になってんだよ!」
「俺別れようって昨日言ったよな? お前反対しなかったじゃんか! だったらもう俺らが一緒にいる意味――」
語尾は朋久の唇に飲み込まれた。
「んっ」
グッと閉じていた唇も強引に割られ、片手を後頭部に回されると、一気にキスが深くなった。
「んーっ! ン……ッ」
口腔内を蹂躙する朋久の舌に翻弄されながらも、流されまいとして、蓮は腕を突っぱね必死で抵抗を続けた。
――なんで……っ
別れようって言っているのになんで、と必死で抵抗する。そして、一瞬の隙を見て朋久の胸を力一杯押した。
「う……っ」
胸を突かれた朋久は蓮を離すと、数歩後ろに下がりケホケホと咳をした。
「ふざけんな! 何すんだよっ!」
思わず怒鳴った。
怒鳴らないと泣いてしまいそうな気がした。
「だって! やだもん、俺! なんで別れなきゃなんねーんだよ! あんな口論なんかで別れるなんて冗談かと思うじゃん!」
負けずに朋久も言い返す。
しかし、その朋久の台詞に蓮の眉がぴくっと動いた。
「なんか……? なんかってなんだよ……冗談ってなんだよ……」
「別れたくない」という昨日蓮が欲した言葉よりもショックを受けた。
まだ何一つ解決していない。
朋久が何を隠しているのかも、蓮が小木津に未練があると思っていることも。
――俺がどれだけ傷ついたんだと思ってんだよ。
「あんな事、軽い気持ちで言えるかよ! もうイヤなんだよ! お前といるのが!」
怒りと悲しさでそう怒鳴りながら、近くにあった枕を朋久に投げつけた。
「え――」
朋久がその場に固まった。
蓮が投げた枕が、朋久の肩にぶつかり絨毯の上に落ちる。
「本気で言ってんの? 本気で俺と別れたい……の?」
朋久が目を丸くして、蓮を見つめる。
悲しそうに見つめるその瞳に、思わず気持ちが揺らぐ。
でも、ここで流されるわけには行かない。
「そう……だよ。そう言ってんじゃん……」
視線を逸らし、朋久の足下にある自分が投げた枕を見つめた。
「なんで……俺の事……嫌いになった?」
「っ!」
泣きそうな震える声で言う朋久のその言葉に、ハッとして蓮は伏せた目を上げた。
――ふ……ざけんなっ。それをお前が俺に聞くのかよっ
「元々好きじゃなかったんだろ……」
「え?」
朋久が眉をしかめる。
被害者ぶって何もわかっていない朋久にイライラする。
「元々好きじゃなかった。俺はまだ小木津の事が好きで、お前には絆されただけなんだって、お前がそう言ったんじゃねーか」
「そ、それは……」
そこまで言って、ようやく朋久は自分の言った言葉を思い出した。
「俺の気持ち勝手に決めつけて、お前がそう言ったんだろ! 俺は小木津が好きなんだろ?! そうなんだろ?」
その態度で、朋久が何も考えないで発した言葉なんだとわかり、余計に悲しく、腹が立った。
「……いくらもうアイツに気持ちがないって言っても、お前は全然信じてくんねーし。……そんなの……ずっと疑われてんの……もう嫌なんだよ」
朋久はいつまでも小木津の事を疑っている。
それは蓮の朋久への想いを、全部否定するという事で。
そんな朋久と、なんで一緒にいるのか、付き合っているのかわからなくなった。
「……」
朋久は今にも泣きそう出しそうに唇を真一文字に噛み締め、床を足元を睨みつけていた。
――泣きたいのはこっちだ、バカ……
「わかったら……出て行け」
目頭が熱くなっていくのを感じ、蓮はそう言って朋久に背中を向けた。
「クリスマス……中止にするなら石岡にお前が連絡しておけよ」
さすがにここまでこじれたらクリスマスパーティどころじゃない。
中止だよな――やっぱウチにはクリスマス来ないんだ――。
諦めるように口元を歪めながら、蓮がベッドに腰をかけると、
「――やだ」
小さい声で朋久が呟いた。
「え?」
思わず顔を上げると、途端に朋久が顔を上げ真っ赤な顔をして怒鳴り始めた。
「わかんねーよ! なんだよ、それ!」
「は?」
あんなに言ったのに全然伝わってないのかと、蓮が唖然とすると朋久は一層声を荒げた。
「俺が頭悪いせい? お前の言ってる事、全然わっかんねぇ! だってお前俺の事好きだって言わねーじゃん! 言った事ねーじゃん!
そんなの疑ったって仕方ねーだろ! 自信なくなって当たり前だろ?!」
「そんなの――」
「隼人の方が俺なんかよりずっとかっこいいし、しかも同じ学校なんだから、気になるのは当たり前じゃんか!」
「な……また逆ギレかよ! お前いつもそうだな! ふざけんな!!」
一方的に捲くし立てる朋久に腹が立った蓮も、再び立ち上がり朋久に言い返す。
以前も、言い負かしたと思ったら逆に憤慨したことがある。
普段は何を言っても怒らないし、ヘラヘラ笑ってのらりくらりかわす朋久だが、キレると駄々っ子のように理不尽で支離滅裂な事ばかり並べ立て喚き散らす。
何で蓮が怒っているのかわかったようにみえて、結局わかってくれない。自分の行為に理由を付け正当化するだけだ。
「だから、俺は別にお前が隼人のことまだ好きでも――」
今回も、朋久は蓮が何に心を傷つけたのか、ちっともわかっていなかった。
「だからなんでそうなるんだって!!」
思わず朋久の言葉を遮った。
「前にも言ったろ!? 俺が好きでもないヤツとヤると思ってんのかよ!」
「え――」
もうなんか頭の中がぐちゃぐちゃだった。
「小木津じゃねーよ、俺はお前が好きなんだよ! だからお前が女連れてるところ見ただけでイライラしてんじゃねーか! わかれよ!!」
朋久への想い、女の子(彼女)を連れていたのを見た時のショック、全部伝わらない。伝わっていない。
それが悔しかった。悲しかった。
「……れ、蓮……」
「絆されただけで男と出来るかっつーのっ! お前が……好きだからに決まってんじゃねーか……。あの時だってそう説明したのに……」
堪えきれずに涙が溢れた。
それを隠そうと下を向くと、途端に熱い雫がボロボロ零れた。
絨毯に小さな染み作っていく。
「好きだよ。好きに決まってるじゃん……なんでわかってくんねーの……? なんで……」
必死で手で拭うが、手が濡れていくだけで、涙は止まらない。
ずっとひた隠しにしていた想いをぐちゃぐちゃにして、強引に心の中に割って入ってきて、散々人の気持ちかき乱して。
でもおかげで、何をしても自分の中から出て行こうとしなかった小木津への想いを追い出せた。
それは朋久だからだ。
ずっと――捻くれて距離を置いてた時でさえ、自分の事を見ていてくれた朋久だから。
朋久なら不器用な自分の気持ちも包んでくれる、わかってくれると思った。
だから朋久の気持ちを受け入れた。
なかなか素直になれないし、気持ちを言う事も出来ないけれど、抱き合う事で自分の想いは朋久に伝わっていると思っていた。
でもそれは自分だけの思い込みだったんだ。
「なんで今更小木津なんだよ……。ふざけんなよ……お前がそう言う度、俺の気持ち否定されるのが……なんで信じてくんねーの……?」
一向に止まらない涙に蓮はもう拭うのも諦め、顔をぐしゃぐしゃにしたまま泣いた。
こんなに人の前で感情を曝け出すのは初めてだった。
大好きな父親と別れる時でさえ、母親の手前泣きたいのを我慢して、笑顔を取り繕った。
感情を表に出す事が苦手で、いつも自然に気持ちをコントロールしていた。
でももう朋久とも終わりだと思ったら、その機能が壊れたらしい。
何も気にならなくなった。
「好きなのに……嫌なんだよ……。ムカつくんだよ……。もうお前に振り回されたくない……」
今まで溜めていた想いが涙となって堰を切ったように溢れ出す。
「ご、ごめんっ」
そんな泣きじゃくっている蓮を、朋久は戸惑いながらも抱き寄せた。
「ごめん、蓮。俺全然自信なくて……。だからお前の気持ちわかっていても、つい……」
ぎゅっと強く力が込められる――が、朋久も戸惑っているためか、声も躯も小さく震えていた。
「でも、蓮が俺の事好きなら別れる必要ないよね……? 俺……別れたくない。もう隼人の事で変な勘ぐりするのやめるから――お願い、蓮の側にいさせて。……ずっと一緒にいたいよ……」
言っている途中から気持ちが固まっていったのか、蓮を抱きしめていた腕も声からも躊躇いがなくなり、蓮は朋久に優しく包み込まれた。
「……」
蓮だって本当は別れなくなんてない。
このまま朋久と一緒にいたい。
――トモ……
いつの間にか涙は止っていた。
朋久の腕の中が心地よくて、気持ちに負けて朋久の背中に思わず手を回しそうになった。
しかし、寸での所でハッと思い止まって降ろした。
「じゃぁ……なんでお前に彼女なんていんだよ……」
俯いたまま蓮はその手で朋久の胸を押して躯を離す。
逃げちゃダメなんだ。
この問題もちゃんと解決させないと……朋久の手は取れない。
「……蓮も俺の事疑ってるじゃん……」
「だってお前……何か隠してるだろ……」
朋久は不満そうに口を尖らせ目を逸らすが、朋久の方には明らかに不審な点があるのだからお互い様にはならないし、出来ない。
別れたくないというなら、ずっと一緒にいたいというならこの問題を避けて通れない。
「……言えよ。教えろよ。何隠してんだよ」
じっと睨むように見つめる蓮に根負けして、朋久はため息を吐いた。
「わかった。……ちょっと待てって」
そう言うと、蓮の肩に置いていた手を離して、部屋を出ていった。
そして、とても小さく可愛らしいリボンの付いた筆箱サイズの箱を持ってくると、
「――ん」
それをぶっきらぼうに蓮の前に突きつけた。
「……なんだよ、これ」
この時期からしてクリスマスプレゼントだろうとはわかったが、なぜ今この時にこんなものを出してくるのか理解できず、蓮は思わず顔を顰めた。
「クリスマスに渡そうと思ってたけど、このままだと別れなきゃなんないみたいだから」
「は?」
「いいから受取って。それ見て」
「……」
不満気な朋久の態度に蓮が渋々箱を開けると、中には小さい革製のストラップが入っていた。
シンプルな一本の革を折った形のストラップで、片方面には「REN」と名前の刻印が入っていた。
「何、これ……」
「グローブの皮で作ったストラップ」
驚いて思わず朋久の顔を見ると、朋久は真っ赤になって口を尖らせながら呟くように言った。
「え?」
「ちなみに」
そしてポケットから自分の携帯を出すと、そこに付いているストラップを見せた。
それには「TOMOHISA」と刻印がしてあったが、蓮が今手にしているストラップと同じものだった。
「俺のと一緒。てかペア。んでこっち側は二本並べると」
自分のストラップを蓮が手に持っているプレゼントのストラップに寄せて並べた。
「――あ」
「模様が繋がるようになってんだよ」
名前が彫ってある方の逆側に彫ってあった模様が、朋久のものと繋がってひとつになった。
かぁっと顔が赤くなる。
――なんだよ、コレ……。
「お前ペアものとか絶対嫌がりそうだし、ケータイストラップ付けねーけど……コレならシンプルだし、かっこいいからお揃いで持ってても
別におかしくないかなって思って。……模様が繋がるものくっつけないとわかんねーしさ」
確かに蓮の携帯にはストラップは付いていない。カバンの中でジャラジャラするのが嫌だったからだ。
おそろいとか、ペアのものとかも貰っても恥ずかしくて絶対身に付けられない。
けれど、このストラップならお揃いって言っても特別感はないし、携帯に付けてもいいかなと思うようなシンプルな形だった。
蓮の性格をよく知り尽くした最適なプレゼントだ。
「一応俺が彫ったんだぞ、その字と模様」
「え?」
改めて眺めてみると、なるほど少し字が歪んでいる気がする。
けれど、そんな事気が付かないくらい上手に出来ている。
「……でもコレがお前の彼女となんの関係があるわけ? 誤魔化す気?」
すごいと思うし、プレゼントは嬉しい。
けれど、それを何故今この状況で出す必要があるのかと、問題を思い出した蓮は再び怪訝な顔をした。
プレゼントでこの問題を誤魔化すためなのかと、つい勘ぐってしまう。
――が、それは違った。
「違ぇーよ。これ作ってんのが、昨日一緒だった子の親戚なの。高校の女友達の一人。今クリスマス前ですげー忙しいって言われたんだけど、
なんとか無理矢理頼み込んで作らせてもらったの。その恩を笠にアイツに昨日一日彼氏やらされたんだよ」
そう渋々口にした。
「――え?」
「お前との約束よりも重要だったわけじゃないけど……無理矢理頼んだ手前無下には出来なくて……ごめん」
変な事に拘る朋久らしいけれど、その理由に呆然とした。
――それ黙っている為に昨日、あんなにケンカしたのに理由を言わなかったのかよ……
手元のストラップを思わず見つめた。
別れるとまで言っても――この為に?
「いやでも……俺には、即席彼氏には見えなかったぞ?」
ハッとして再度朋久を見る。
「なんてゆーか……自然な感じがした。あの子と本当に付き合ってないって言えるのかよ」
そうだ。
あの時二人の間にそんな演技のような余所余所しさを感じなかった。
だから、自分でもまさかと思ったし、朋久が「振り」だったと言ってもにわかに信じられなかった。
いくら朋久がお調子者でチャラいヤツだと言っても、女の子の方もあんなに自然なカップルを装えるものなのだろうか?
「……どんだけ俺の事わかるんだよ、お前……」
あの時感じた事を素直に訴えると、朋久は視線を外しはぁ〜と長いため息を吐いた。
「なんだよ、それ……」
朋久の台詞に自分の勘が当たっているのかと、ドキっとした。
やっぱり彼女なのかと不安になったが。
「付き合ってない。断言できる。でもお前すげぇな」
「え?」
「元カノだよ。二ヶ月くらいですぐ別れたけど。だから彼氏役たって、そりゃ簡単だし自然になるだろ」
その疑惑も否定してくれた。
「元カノ……」
いつもの癖はない。嘘は吐いていないしこれ以上隠し事はないようだ。
そこでようやく、蓮は朋久の疑惑全てに納得する事が出来た。
「一応その後俺らすぐ別れたって筋書きになってるし、このストラップお願いした時点で俺に好きなヤツいるの、アイツも知ってるから。後腐れねーし大丈夫」
「……じゃぁ……」
再度朋久が蓮を腕の中に包み込んだ。
「黙ってて、誤解させて不安にさせてごめん。お前の言う通り前は……本当に遊んでたし、好きじゃない子ともヤってたけど……今は蓮しか欲しくない。
ぶっちゃけお前以外じゃ勃たない」
ぎゅっと力が込められる。
心地いい強さで、しっかりと。
「だからお前も信じて。俺が好きなのは蓮だけ。蓮だけが好きなんだ。お前しかいらない。だから別れたくない」
「……トモ……」
もう、躊躇う必要はなかった。
蓮はゆっくりと朋久の背中に手を回した。
「あの……俺も悪かった。隼人の事……」
「……わかってくれれば……もういいよ……」
「蓮がそんなに俺の事好きだったなんて思ってなくて……あと泣かせてごめん」
「な、泣いてなんてねーし!!」
バッと思わず朋久の手を振り払った。
泣いたのもそうだが、あんなに「好きだ」と連発していた事実を思い出し、ついいつものように言い返してしまった。
あんなにボロボロ泣いておいて……と自分でもばかばかしく苦しい嘘言うなと呆れるが、癖なのだから仕方ない。
「だって隼人は敵わないくらい男前だし、同じ学校だし、お前がどんなにアイツの事好きだったのかも知ってるからさ……その、なんてゆーの?
焼けぼっ栗になんとかとかいうヤツ? になったらどうしようって」
モジモジしながら呟く朋久に、蓮はため息を吐いた。
そんなに不安を抱えていたなんて、ちっとも気付かなかった。
いつだって朋久は自信満々で強引で、笑顔で側にいたから。
「……お前色んな意味で本当にバカだな」
「なんだよ! それだけ俺も不安なんだよっ……だってお前を繋ぎ止める方法わかんないんだもん」
「……お前はいつも通り、俺にベタ惚れでいれば……それだけでいいんだよ」
「え……お前それって……」
真っ赤になった朋久を前にすると、自分の言った台詞が急に恥ずかしいものに感じた。
「あー、もうなんだよっ。お前といると……ホント調子狂う……」
蓮も朋久と同じように顔を赤らめたが、手のひらを額に当てながら独り言のように呟いた。
どうにも自分の表情がコントロール出来ない。
「あと、“焼けぼっくり”じゃなくて、“ぼっくい”だから。それからアイツとは何も燃える事してねーんだから、焼けぼっくいそのものも存在してねーんだよ、
バーカ。国語ちゃんと勉強しろ」
「えー? このムードいっぱいの時にそんな事言う?!」
素直になりたいと思うのに、チームメイトや同級生のように朋久とも笑い合いたいと思うのに、それが出来ずにそんな自分にムカついて、朋久に八つ当たりをしてしまう。
つい悪態を吐いたり揚げ足を取ったり、可愛げのない態度をとってしまう。
「ま、そこが蓮っぽいんだけどな」
しかし朋久はにっこり笑うと、そっと蓮にキスをした。
それでも朋久は笑って全部を包みこんでくれるから――。
蓮も今度は朋久の唇を素直に受け止めた。
「ねぇ蓮、仲直り……しない?」
――やっぱりこいつを失いたくない……。
返事をする代わりに蓮は朋久にキスをすると、腰に回した腕を引き寄せ自ら一緒にベッドに倒れこんだ。
*****
その後、朋久は蓮を優しく抱きながら、ずっと「好きだ」と言い続けた。
それを聞いて、蓮は心の底から暖かくなるのを感じた。
朋久の「好き」を聞きながら、もう少し自分も言葉で伝えないとと思った。
この言葉の持つ力を知ったから。
抱き合う事で気持ちは伝わっていると思っていたが、行動よりも言葉が必要な時があると知ったから。
一言だけでもかなり恥ずかしいし、口にするのは緊張するけれど。
「ト、モ……っあ、はっ……ん……っ、好、きだよ……っ」
朋久に腰を打ち付けられながらそう言うと、躯の中にいる朋久がビクッと揺れたのを感じた。
「ちょ、蓮っ、それ不意打ち過ぎるっ……歯止め利かなくなるだろーが」
困ったような苦笑いを浮かべる朋久に、蓮は笑みを浮かべた。
でも少しずつでも、気持ちを素直に伝えられるように努力しよう。
とりあえず――
「いい、よ……好き、にしろ……」
そういうとそっと朋久の首に腕を回した。
――今日は朋久に求められたい……。
「へ?!」
大きな目を一層大きくして見下ろす朋久の耳に、蓮は唇を寄せた。
――クリスマスプレゼントってことで……さ。
<終わり>
ありがとうございました! よろしければ拍手・一言感想などいただけたら嬉しいです♪
