X'masParty! & NightParty?

付き合い始めて初めて迎えるクリスマスにまつわるお話。
ちなみに、小木津はプレゼントの衣装を着せられ、またそれを見た朋久は「蓮に着せたっかた…」と蓮と自分のくじ運の良さをひっそり悔やんでいたという。



 12月24日――昼から始まった男8人のクリスマスパーティは、予想以上に盛り上がった。

 朋久と、小木津も手伝った料理は好評で足りないくらいだったし、勝田が持参したTVゲームでもプレゼント争奪戦となると白熱のバトルを繰り広げ、爆笑の連続。
 特に今までゲームをした事がないという和哉は、目をキラキラさせ小学生のように夢中で楽しんでいた。
 1000円を上限として各自用意したプレゼント交換では、8人中5人がまさかの「ネックウォーマー」被りが発覚。
 しかし、他の3人の用意したプレゼントが「駄菓子詰め合わせ」や「100円均一で揃えたサンタ衣装(女物の上下セット帽子付き)」「ド派手なパンツ(ブーメラン仕様)」と、ろくでもないものばかり。
 ゲーム最下位の和哉とブービーの蓮が選んだプレゼントが「ネックウォーマー」で、1位だった石岡が選んだものが「ド派手なパンツ(ブーメラン仕様)」、2位の小木津が「100円均一で揃えたサンタ衣装(女物の上下セット帽子付き)」だった時にはかなり爆笑した。

 家では滅多に見せない蓮の心底楽しそうなくったくのない笑顔が見れ、また自分も野球部連中と仲良くなれた朋久は、パーティをやってよかったと心底満足した。

――ただ1つの誤算を除いて――。

「勝田ー。客間に布団敷いたから、そこ使っていーよ」

 最初は他のメンバーと一緒に帰る予定だったのだが、左中間を組んでいるという勝田が突然「もっと蓮の事知りたいし、明日休みだから泊まってく」と言い出したのだ。

「え? 蓮はどこで寝るの?」
 
 客間を使えと言った蓮に、勝田がきょとんとしながら尋ねる。

「俺? 自分の部屋だけど」
「えー、なんだよー。だったら俺も蓮の部屋で寝るー。せっかく泊まって行くんだからさ、一晩中語り合おうよ」
 
 蓮も質問の意味がわからず首を傾げながら答えると、勝田は口を尖らせた。

「はぁ?!」

 キッチンで洗い物をしていた朋久が、その勝田の発言を聞いてつい声を上げてしまった。

「え? 何? あれ、なんかマズい?」

 その声に驚いた勝田が、キッチンの朋久の方を向いた。
 勝田の隣で蓮が「余計な事言うな」と目で訴え――いや、鋭い目つきで睨んでいる。

「あっ、いやー別に……蓮の部屋狭いからなーって思って……はは」

 慌てて笑顔を取り繕うと洗い物を続けたが、朋久の内心は穏やかではなかった。
 今日と翌25日は、監督の都合で部活が休み。
 泊まって行くには確かに都合もいい。
 しかし蓮との甘く熱い聖夜を期待していた朋久は、愕然として言葉が出なかった。
 二人の関係を知っている小木津や和哉が気を利かせ、なんとか帰らせる方向で勝田を促してくれようとしたが、何も知らない勝田に「空気を読め」とも言えない。
 蓮も朋久も上手い言い訳が考えらないまま、強引な勝田相手にもう頷くしかなかった。
 突然現れた邪魔者にもやもやとしながら、それでもチャンスはどこかにあるハズだと朋久は前向きに考えていたのだが。

――蓮と同じ部屋に寝るだと?! んな事されたら夜這いすら出来ねーじゃん!!

 食器を洗うスポンジに力が入る。
 勝田が泊まっていっても、夜こっそり蓮の部屋に行けばなんとかなるかなと思っていた。
 せっかくのイブなので、出来れば一緒に過ごしたい。
 しかし、勝田が蓮の部屋で寝るとなったらそうもいかない。

――どうする? どうする? 俺!! チャンスはどこにある?!

「――トモ。――おい、トモってばっ!」

 お湯を出しっぱなしにしながら考え込んでいると、後ろから頭を小突かれた。

「わっ! あ、なんだ蓮。あれカッチーは?」

 慌てて蛇口を捻りリビングを見渡すが、さっきまでいた勝田の姿が見えない。
 パーティの最中意外と気が合った朋久と勝田は、「トモちん」「カッチー」と呼び合うほど仲良くなったのに、まさかこんな事態になるなんて。 
 
「勝田は風呂。さっきお前にも言ったし」

 そう言うと蓮ははーっとため息を落とし、腕を組んで食器棚に寄りかかった。

「お前あからさますぎる。どうせエロイ事考えていたんだろうけど、もう諦めろよ」

 そして呆れるように言った。

「だってさ。明日休みとか絶好の機会なのに……。なんでこうなるんだよ」

 二日連休なんて事は滅多にない。
 しかもこの間のケンカ以降、蓮は朋久に甘くなっている。
 約束の週3日を超えているのに、求めれば答えてくれる。
 さらに、拒否される事を覚悟でこの間上限の2回を超えた3回目を強請ったら、なんだかんだ言われたが結局拒否せず受け入れてくれた。
 こんな美味しい状況で翌日休みと来たら、一晩中出来るのではと期待するに決まっている。
 朋久はパーティ中も、ずっと今夜の事で頭をいっぱいにしていた。
 だからこそ、蓮に馴れ馴れしく触る輩がいても、なかなか蓮と話をする事が出来なくても、寛大な気持ちで大勢の友達とわいわい楽しく過ごせたというのに。

――それなのに、なんでこんな事に……。

「自業自得だろ。ばーか」

 自分の詰めの甘さにかなり凹んでいるのに、そう言って口角を上げた蓮に朋久はカチンときてしまった。 
 数週間前のあのケンカもあって、今日は特別な日にしようと頑張ったのに。

「――ムカつく」
「は? ……んっ」

 イラッとした朋久は無言で蓮の前に立つと、そのにやけた口を強引に塞いだ。

「ちょっ……お前っよせっ! か……勝田が……っ」

 必死で顔を逸らして抵抗するが、

「風呂なんでしょ? じゃー今しかチャンスねーじゃん」

 顔を背けた事で露になった首筋に朋久は問答無用で舌を這わせ、蓮のトレーナーの裾から手を差し入れた。

「ちょっ、え?! 待てっ……ちょ、んっ……」

 蓮は朋久の腕を掴みトレーナーの中を動く手を必死で制する。
 耳に息を吹きかけ甘噛みしながら、トレーナーの中の指先が蓮の弱い所を軽くなぞる。 
 楽しみにしていた甘い夜の予定が無くなったのなら、このほんの時間でも無駄には出来ないと朋久も必死だった。

「あっ……ん、や、め……っ」

 朋久を制しようとする蓮の手がビクビク震える。
――が。
 
「やめろっつってるだろっ!!」

 今回は朋久の欲求よりも、蓮の抵抗が勝った。   
 蓮の右肘が朋久の左頬を直撃したのだ。

「いっってぇっ!」

 朋久が涙目で頬を擦る。
 蓮の本気の抵抗は本当に容赦がない。
 だからこそ、本気で嫌がっていない時がわかるのだが、傷心している今、これは泣きっ面に蜂というやつだ。

「ひでぇよ蓮……俺今日すっげー頑張ったのに……」 
「だからってこんな所で盛るなっ! ドアホ!」
「だってさ……ね、俺だけ? 蓮は……エッチぃ事考えなかったわけ? クリスマスだよ? 俺達恋人同士なんだよ? だったら愛し合いたいじゃん!」
「なっ何言って――」
「蓮がクリスマスを好きになるように、俺最高の一日にしようと思って……」

 それでなぜキッチンで襲うことになるのか、自分でも言ってて矛盾していると思うけれど、

「うっ……」

 同情を訴えるように見つめると、蓮はいつもの反論を言い淀んだ。
 そして数秒後、蓮ははーっとため息を吐くと、

「勝田ってさ……」

 小さい声で呟くように言った。

「え?」
「一度寝ちゃうと……なかなか起きねぇヤツだから……」
「え? 何?」
「そ……それまで待ってられるなら……その、お前の部屋……行ってやってもいい……けど」
「――へ?」

 ブツブツと独り言のような小さい声で呟く蓮の言葉を理解するのに数秒を要した。

「――マジで?!」

 ハッとその意味に気がついた時、朋久は息を飲みこむように右手で口を塞いだ。
 まさか蓮の方からそんな事を言ってくるなんて思っていなかった。
 やっぱり最近の蓮は朋久に甘い。

「いや、だって。今日……頑張ってたからさ……」

 言い訳のようにそういうが、今までの蓮ならこんな提案絶対にありえない。
 
「そ、その代わり一回だけだからなっ!」
「いい! いい! 全っ然いいよ!! 俺一晩中待ってる!!」
「ちょッ! だからやめろってっ!!」
 
 感激のあまり耳まで真っ赤にしている蓮を力いっぱい抱きしめた朋久は、再び蓮の肘鉄を食らった。
 

****


 その夜――。

「蓮……めっちゃ可愛いかった……」

 蓮が自分の部屋に帰った後も、朋久は幸せに包まれていた。
 今までいつでも出来るような状況だったせいか、ほんの数時間の短い間だったが、充分濃厚で幸せだった。
 あの蓮が、深夜恥ずかしがりながら人目を忍んで自ら部屋にやってくるという状況と、涙目で必死に嬌声を押し殺している姿に、朋久は逆にいつもよりも興奮した。
 
「あぁもう蓮マジ天使。マジ大好き。マジ愛してる〜〜〜」
 
 蓮の残り香がほのかに漂う枕を抱きしめ、朋久は先ほどまでの蓮の姿を何度も反芻しながら布団の上でずっと悶えていた。
 蓮が帰った後も、朋久は思い出す度この高まる想いを何度も掌の中に吐き出した。
 それでも、ちっとも虚しく感じない。
 
「今日の分、明日じっくり愛し合うぞーーっ」 
 
 いつまでも朋久は幸せに満たされていた。
 まさかこの蜜月期間が蓮から朋久への、この間のケンカの詫び兼クリスマスプレゼントだったなんて。
 しかも今日が最終日で、明日からまた制限付きのいつもの日常が戻ってくるなんてつゆ知らず――。



・・・end
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