気になるあの子

中学卒業後の高校一年生の朋久の話。
気になっているものの、何も出来ないともちんです。


――あ、蓮……。

喜多川駅側にあるコンビニエンスストアの前。
「喜多川」と刺繍の入ったエナメルバックを持った集団の中に、蓮がいた。
野球部員らしい仲間達と一緒になって、蓮は笑っていた。

――やっぱり野球部入ったんだ……。なんだ楽しそうじゃん……。

久々に見た蓮の笑顔。
なぜだろう。
胸が締め付けられ、泣きたい気分になった。

中学を卒業した後も、朝、何度か駅の近くで蓮を見かけていた。
蓮の姿を見かけるたび、何度も話掛けようとした。
けれど、蓮が着ているのが隼人と同じ喜多川高校の制服だと思うと、言葉が詰まって声がかけられなかった。
隼人が好きで、隼人を追いかけて喜多川高校に行った蓮――蓮が誰を好きになろうと蓮の自由だし、俺には関係ない。
親友の自分をないがしろにされたというだけの、つまんない嫉妬だとわかっているけれど、それでもそれを思い出す度やたらムカつくから。
お前なんて知るか、と蓮から顔を背けていた。
蓮から話しかけられたわけでもないのに、蓮を無視する事で蓮を見捨てた気でいた。
――なのに。
楽しくやっているんだとホッとする反面、俺がいなくても何も変わらない姿にムカついて、悔しくてたまらなくなった。

「トモ、どーした? あ、コンビニ行きたいの?」

立ち止まってコンビニの方をじっと見つめていた俺に、涼が声をかけハッと我に返った。

「んーん。なんでもね」

へらっと笑顔を浮かべると、

「あれ、みんなこのまま帰っちゃう気? ねぇご飯行こうよー」

さっきまで一緒にカラオケを楽しんでいた女の子達の側に駆け寄った。

「ご飯食べながらさ、ゆっくり話ししよ 」

そしてそう言って優しく微笑みかける。
「あの子すげー可愛い!チョー好み!」と涼が騒いでいたので、声をかけてみたら付いてきた女の子二人組。
えー?どーするぅー?なんて友達と相談してるけど、答えはYESだってもう顔が言っている。

「トモ、俺貴子ちゃん狙いだから。よろしく」
「わかってるって。決めろよ」

女の子達がウダウダ相談し合っている間に、こっそり涼と戦略を練る。
惚れっぽく,気に入った子は手を出さずにはいられないという根っからのチャラ男・涼と高校で出会い、何気に気が合い仲良くなってから、俺の生活が一変した。
アルバイトとカラオケ合コンの毎日。
蓮は部活で青春しているっていうのに、俺は堕落した高校生活を送っていた。
中学時代以上にモテるし、クラスでも人気者。傍から見たら充実した高校生活かもしれない。
自分でもそう思っていた。
なのに蓮の姿を見かけるたび、虚しさが襲ってくる。

蓮の事なんて気にしなきゃいいのに。
俺との縁を切った蓮の事なんて忘れればいいのに。


ファミレスに行く事に決まり、その場を去る前、もう一度チラッとコンビニの方を見た――が、もうそこに蓮の姿はなかった。

蓮の中にもう俺はいないのに、俺はいつまで蓮に拘っているんだろうか……。

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