そんなサプライズの誕生日会が無事終わって、2時間後――
「蓮、明日朝一回家戻る?」
「んー。面倒だからまっすぐ学校行くよ」
「わかった」
ベッドの隣に敷かれた布団の上でストレッチをしながら、蓮は朋久の問いに答えた。
蓮はまだ朋久の家――そして朋久の部屋にいた。
明日は土曜日。
泊まっていけという朋美と美波の引き留めに、朝練があるからと最初は断っていたのだが、朋久も参戦し結局押し切られて泊まっていくことになったのだが。
「お前さ、最初から俺の事泊めるつもりだったろ」
「あ、バレた?」
風呂上がりの朋久は、半乾きの髪をバスタオルで拭きながら、蓮の問いにさらっと答え自分のベッドに座った。
「当たり前だ。準備がよすぎる」
泊まっていくと決めた途端、朋久が蓮の着替えや寝間着を鞄から取り出した。
それは普段から使っている蓮のもの。
そんなものを偶然に朋久が持っている訳がない。
逆に偶然だとしたら、そっちの方が問題だ。
「だってさ、今日ダメなんだろ? こんな特別な日に二人っきりでいるよりは自制心保てるかなって思って」
苦笑いを浮かべる朋久に、蓮はため息で返した。
春大で県2位になれたおかげで、今年はシード権が取れ、試合日程に比較的余裕がある。
さらに今年は1年かけて夏に向けての練習スケジュールを組んでいるので、練習も去年ほどキツくはない。
朋久が暴走さえしなければ練習にもあまり影響が出ず、それなりに愛し合う事が出来る。
しかし、たまたま――本当に偶然なのだが――よりにもよって明日、実践を意識した紅白戦があるのだ。
朋久の誕生日に散々な目に遭ったので、なぁなぁだった状態を改め、気を引き締めて最初の約束通りの性生活に戻した。
なんでもない日なら自制出来ても、誕生日という特別な日に二人きりでいればそういう雰囲気になってしまうに違いない。
もし二人きりでいた時に、自分の為に母から稲荷寿司を教わり、作ったと笑顔で言われていたら、流れに任せて躯を許してしまっていた気がする。
「お前にしては正しい判断だな」
朋久にしては賢明な判断だと思わず感心した。
ここにいれば、家族の存在が気になって何も手出しが出来ない。
どうしたって我慢するしかないのだ。
「だろ? かといってさ、別々にいても寂しいし。母さんが一緒に祝おうって言ってたからさ」
「うん。こういう誕生日久しぶりすぎて……すげー笑ったし、楽しかったよ。お稲荷さんにも感激したし」
去年は押し掛けてきた朋久と二人。それ以前も母の礼子と二人、一人きりだった年もある。
こんなに大勢で祝ってもらえる誕生日なんて何年ぶりだろう。
居たたまれなくなる時もあったが、楽しかった。
特に仕事から帰ってきた朋久の父親・久雄が混じった辺りからは、ずっと笑いっぱなしだった。
几帳面で真面目な自分の父親と正反対だったせいもあるが、昔から久雄はテンションが高くいつでも陽気で、蓮はそんな久雄が大好きだった。
朋久と美波は久雄のそんな陽気な性格をウザがっているが、明らかに朋久の軽さは久雄譲り。
久雄と朋久はそっくりで、それがおかしくて笑ってしまう時もある。
久々に会った久雄はやはり面白くて、涙が出るくらい笑った。
「そ? ならよかった」
楽しかった時間を思い出して思わず顔が綻ぶ。
それくらい楽しかった。
「あ、そうだ。忘れてたよ。もう1個プレゼントがあるんだった」
突然朋久が何かを思い出したように、ベッドから降りると自分の鞄を漁り始めた。
「はい。これプレゼント」
「え?何?」
目の前に差し出された紙袋を反射的に受け取ると、その中には地元で有名な大きな神社のお守りが入っていた。
「お守り?」
余りに意外すぎて、必勝祈願と書かれている手元のお守りと朋久の顔を思わず何度も交互に見比べた。
「うん。色々考えたんだけど、やっぱコレが一番かなって。ちゃんと必勝祈願もしてきたぞ」
「あ……ありがと……」
朋久と神社・お守り・必勝祈願――どれも朋久から想像出来ない事柄に、意外すぎてそれ以上言葉が出なかった。
「それ持ってって試合に勝つだろ? んで家に帰ったら稲荷寿司でお祝い。すげー完璧な計画だろ」
「……」
再びベッドに腰掛けそう得意げに笑う朋久に、胸がきゅんと鳴った。
――なんだろう、すっげー胸がドキドキする。
いつもはエロい事しか考えていないし、ろくな事思いつかない朋久だが、やっぱり誰よりも蓮の気持ちを、今一番何が欲しいのかをちゃんとわかっている。
改めて朋久の気持ちの大きさを思い知らされた。
「ん? 何どうした? 嬉しすぎて言葉が出ないとか?」
ただじっと朋久を見つめる蓮の顔を、朋久はにやけた顔で覗き込む。
「いや、うん……。やっぱ正解だなって思って。こっち泊まって」
「え?」
「俺が我慢できなかったかもしんねーなって思ってさ」
今ものすごく、朋久にキスしたい衝動に駆られている。
でも、それは出来ない。
触れてしまったら多分止められないから。
「へ??? え? ・・・えぇ!?」
目を丸くしている朋久を見て、蓮はふっと笑みが零れ、同時に少し心が軽くなった。
「なんでもねー。さー寝よっか」
蓮はにやっと笑って、布団に潜り込んだ。
キスしたい、そしてそのまま朋久に抱かれたいと初めてこんなにも強く思った。
触れる事を我慢するのが、こんなにも辛い事だなんて、今初めて朋久の気持ちが分かった気がする。
「……お前そういう事さらっと言うなよ、なんなのマジで。なぁせめてお休みのチューは? なぁダメ??」
「ダメに決まってるんだろ。さっさと寝ろ」
蓮の台詞に触発されてしまった朋久は、蓮に伺いをたてるが、蓮はあえて冷たく言い放つと朋久に背を向けた。
――キスだけで止まれるヤツじゃねーだろ、お前だってっ
「蓮〜〜〜。なぁ、蓮ってば〜〜〜いいじゃんキスくらい〜〜」
「あーもう、うるせぇな。隣に聞こえんだろ? 明日もう一個、お前からプレゼントもらってやるから。今日は我慢しろよ」
ずっと背後でブーブー言っている朋久に、面倒くさくなって布団の中から答える。
「え? 何それ」
「お前の気持ち、たくさんもらってやるっつってんだよ。だからさっさと寝ろ」
「? ………………っ!!」
一瞬間があったが、蓮の言葉の意味がわかると
「わかった!!! 明日、明日な?! うん、あげるあげる!いっぱいあげる!! じゃ、おやすみ!!!」
一転してご機嫌な声になった朋久は、大きな音を立て勢いよく自分のベッドに転がった。
「単純だな……」
素直というのかなんなのか、そんな朋久にクククと笑いを堪えながら、蓮もゆっくりと目を閉じた。
・・・end
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