蓮が俺たちを完全無視し始め、完全に友情が壊れてから二年が経ち中学最後の年になった。
 その間も俺は蓮の事をずっと気にしていた。
 楽しかった頃の三人を最初から思い出し、蓮が変わった理由を必死で考えた。
 しかし、わかりそうでわからない。
 話をしたくても避けられ、まともに会話が出来ないもどかしさに、ただいたずらに時が流れていくのを眺めているだけだった。
 
「トモー。今日部活行く?」
「あー、うん」

 一番の遊び友達を無くし、時間が余ってしまった俺は一人で帰宅してもつまらず、友達に誘われるままテニス部に入った。
 規律が緩く参加も個人の自由な部活だったが、なんとなく毎日ちゃんと部活に出ていた。
 三人のもやもやした関係を、部活動に集中することで吹っ切ろうとしていたのかもしれない。
 運動神経は悪くない方なので、それなりに試合で成績も残した。
 おかげで友達も増え、可愛い彼女も出来た。傍から見れば充実した学校生活だったと思う。
 それでも、ずっとどこか物足りなさを感じていた。
 
「あ、蓮!」

 そんなある日、部活が終わり道具を片づけしていると偶然蓮と体育倉庫で鉢合わせた。
 蓮に無視されるのが切なく、いつもは意識しつつなかなか声を掛けることが出来なかったのに、この時は気が付くと声を掛けていた。
 
「……なんだよ」

 いつも何を言っても無視していた蓮の方も、今日に限って珍しく言葉を返した。
 野球ボールの入ったバケツを倉庫の奥にしまいながら、俺の方を振り向きもしなかったが、それでも二年振りの会話に俺は興奮した。
 
「あ! 明日試合なんだって? どこでやんの? 教えてよ」

 だからなんとか会話を続けようと、とっさに今朝、同じクラスの野球部員が言っていた話を思い出し会話を続けようとした。
 
「なんで?」

 バケツを置くと踵を返し、倉庫の入り口にいる俺の方に歩いてくるが、蓮は俺とは目を合わせない。
 
「なんでって……。お、応援に決まってんじゃん。お前すげぇ巧いって聞いたからさ。一回くらい見てみたいなって」

 それでも俺は笑顔を必死で保った。
 転校してくる前は地域の少年団に入っていたという事を、前に聞いたことがある。
 こっちに来てからは野球で遊ぶ事も、リトルリーグや少年団などにも入っていなかったので、今まで蓮がプレーしている姿は見たことは無かった。
 しかし、蓮は結構巧いらしく二年からレギュラーに抜擢されていた。
 野球部員から蓮の話を聞いた時、蓮が好きな野球を、野球をやっている姿を見て見たいと思ったのは本当だ。
 少しでも自分の知らない蓮を知りたいと、蓮の事を知ることでまた昔のように笑い合えるようになれればと思って。
 
「見たって仕方ねーだろ」

 しかし蓮はそんな俺の気持ちをそんな一言で一蹴すると、最後まで目を合わせずに俺の横を通り過ぎていった。

「ちょ、おいっ! 蓮!」

 蓮は振り返りもせず、去っていった。
 時が経てば蓮の気持ちが変わるかもと安易に考えていたが、結果は二年経っても変わらなかった。
 笑い合っていた毎日が懐かしい。
 彼女がいても、友達がたくさんいても、テニスで好成績を残しても、どこか満たされない毎日。
 物足りないもの――それは蓮の存在だ。

「蓮……」

 蓮ほど一緒にいて楽しかった奴はいない。
 好みは全然違うのに、感受性は似ているのか、何か見聞きするれば不思議と思いを共感しあえる蓮。
 日常的にも目で会話が出来るほど、互いの気持ちを分かり合っていた。
 今は蓮の気持ち・考えている事、全然わからなくなってしまったが、それでもやっぱり蓮の持つあの雰囲気が好きだ。
 邪険にされても会話を交わせた事で、閉ざされていた蓮の世界に入っていけた気がして嬉しかった。
 一緒にいたい。
 もう一度蓮の隣で一緒に笑い合いたい。
 ほんの2,3言だけれど二年振りに会話を交わし、それがハッキリわかった。 
 だからそれから俺は、必死に蓮に話しかけた。

「れーん! 蓮も今終わり? 一緒に帰ろうぜ」
「はぁ? 何でだよ。やだよ。一人で帰れ」

 嫌がられても何度も何度も。
 蓮に嫌われているとは思わなかった。

「いーじゃん、どうせ同じ方向なんだし」 
「……好きにしろよ」

 今まで無視されるのが怖くて、会話が止まってしまうとそこで諦めていた。
 しかしなんだかんだと強引に話を進めてしまえば、蓮の方が諦めて渋々俺に従う。
 だから嫌われている事は絶対にない。
 そう確信していた。
 
 だからハッキリと蓮の口から俺たちを避けている理由を聞くまでと、俺は蓮にまとわり続けた。
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