その日一日は全く気力が出なかった。
 学校に行く気もなかったが、学校は休まず行くというのが母親との約束なので、遅刻になったが仕方なく登校した。
 しかしそれからずっと俺は机に突っ伏したまま、放課後まで寝て過ごした。

「おーい。トーモー? どうしたぁ?」

 いつでも、どんな時でも笑顔を絶やさず明るいキャラを演じていたので、一日ぐったりとしている俺に、悪友の涼が声をかけてきた。

「……もう俺ダメかも……」
「何が?」
「完全に嫌われたぁ……」

 そう呟いて頭を抱えた。
 今朝、気まずくもあったが俺はいつものように朝食を用意した。
 俺が動揺したら、ますます気まずくなる。そうなったらいつまで経っても蓮との関係修復なんて出来ない。
 とりあえず俺はいつもの調子でいようと、昨日一晩考えてそう結論を出した。
 しかし、いつも降りてくる時間になってもなかなか蓮は部屋から出て来なかった。
 階下から何度呼んでもなんの返事もない。
 とうとう自分も家を出ないとならない時間になり、思い切って部屋の扉をノックしてみたが、それでもなんの返事もなかった。
 絶対入ってくるなと初日に念を押された禁断の部屋だが、蓮の様子も気になったので仕方なくドアを開け中を覗いた。

――が、その部屋には誰もいなかった。

 朝食の準備の為、いつも俺は蓮が家を出る一時間前に起きている。
 しかし、リビングにも洗面所にも蓮がいた気配は感じなかった。蓮が家を出ていった事に全く気が付かなかった。
 それはもうその頃には家を出て数分経っていたということだ。

――会いたくねぇってことかよ。

 朝練の二時間も前に黙って家を出ていくなんて、顔を合わせるのも嫌だなんて、無視されるより堪える。

「あー、もう潔くヤっちゃえばよかった……」

 こんな事になるなら、同じ嫌われるならいっそ最後まで押し切っちゃえばよかったと最低なことまで考えてしまう。

「何お前女いたの? いつの間に?! てかヤる前に振られたのか!」
 
 思わず口から出た愚痴を聞いて、涼が嬉しそうに言った。

「だから最近付き合い悪かったんだな。抜け駆けするからだぞ」
「……うるせー」
「じゃあさ、今日の放課後は暇だろ?」
「放課後ぉ?」

 その言葉にまたしても頭を打たれた。

「放課後なんて嫌いだ……」
 
 毎日放課後が近づくとウキウキしていたのに、今日は逆に気が重かった。
 家に帰れば、蓮と必ず顔を合わせる事になる。蓮は何を言ってくるんだろう。
 そもそも無視するか。目すらきっと合わせてくれないんだろうな。
 同じ家にいるのに無視されるなんて、そんなの辛すぎる。拷問だ。地獄だ。
 実家に帰ってしまおうかとも思ったが、親に「俺が絶対蓮を甲子園に行かせるから!それまで帰らない!」とかっこよく宣言して家を出てきた手前帰りづらい。

「帰りたくねぇ……」

 どうしていいか分からずそう呟くと、

「気分転換にカラオケ行こうぜ! な? 可愛い子連れてくるからさ」

 涼が満面の笑みでカラオケに誘った。
 もちろん男二人だけなわけじゃない。女の子が付いてくるのは確実だ。正直面倒くさい。
 しかし、久しぶりに女の子と遊ぶのも気分転換になるかもと考え、

「……うん……そーだな、行くか!」

 俺は涼の誘いに乗った。
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