慌てて片づけを終え、おばさんに就寝の挨拶をすると急いで蓮の部屋に向かった。

「蓮〜」

 ドアを軽くノックし、ゆっくりとドアを開ける。
 部屋を覗くと、電気は付いていたが蓮は夏掛けをかけてベッドで横になっていた。

「え、寝てんの?」

 待たせている間に眠っちゃったのかと、がっかりしながらベッドに近づくと、

「ん……あ、トモか……」
 
 気配に気付いたのか、蓮が眩しそうに目を開けた。

「遅ぇよ……もう早く済ませろ……」

 半分寝ているような籠もった声でそう言うと、すぐにまた目を閉じ蓮は仰向けになった。
 そのまま寝てしまうそうな感じだ。

「……そうだよな。蓮だしなぁ……」
 
 ドキドキしながら俺を待っていると思いきや、ほとんど寝かかっている蓮を前に俺はがっくりと肩を落とした。
 照れ隠しの寝た振りなんかじゃない。どう見てもこれはマジ寝だ。
 触れるだけのキスでも毎回ビクっとする蓮の反応が可愛くて仕方なかったのに、眠っている奴にキスしてもなんの反応もないし、ちっとも面白くない。
 しかし、ここ最近の蓮の疲労を考えたら眠ってしまっても仕方ないと、小さく寝息も聞こえる蓮にいつものようにちゅっと言うかわいい音を立てて軽くキスをした。

「……っ」

 触れた瞬間はわずかに躯が震えた気がしたが、唇を離すとすぅっと寝息が戻った。

――あれ、もう寝てる?
「蓮?」
「…………んー……?」

 まだかろうじて起きているのか、名前を呼ぶと数秒遅れて生返事で答えた。
 しかし完全ではなく「ほとんど」寝ている状態の蓮を前に、俺の中で悪い心がムクムクと顔を出した。

「なぁ、もう一回いい?」
「……んー……」

 予想通りの生返事。でもそれを俺はあえてOKと取った。

「じゃ。お言葉に甘えて」
 
 に、っと笑うと、遠慮なくもう一度キスを落とした。今度は軽く触れ合う程度のものでなく、しっかりと数秒間重ねて。

「ん……」

 少し身じろいだが、抵抗する素振りは見せない。
 ドキドキしてもう一度聞く。

「……蓮〜今度舌入れてみていーい?」
「……んー……」
「マジで?!」

 思わず大声を上げそうになり、慌てて右手で自分の口をふさいだ。
 それを予想して聞いたのに、無意識の返事だとわかっているのに、蓮からOKをもらえたような気して胸がいっぱいになった。
 うっすら開いて小さく呼吸をしている蓮の唇を見つめ、ドキドキしながら顔を近づけた。

「……ん……何? トモ……まだいたの……」

――が、唇が重なるよりも先に、蓮が眩しそうに目を開けてしまった。

「っ!!」

 罠に嵌めようとした罪悪感からか、反射的に顔を上げてしまった。

「あ……あーあ。起きちゃった……」
 
 さっさとしちゃえばよかったと思ったが後の祭り。

「何しようとしたんだよ……」

 不機嫌そうに蓮が呟く。
 何って……そりゃあ……。
  
「なぁ、蓮。お前さ、さっき俺がもう一回いい? って聞いたの覚えてる?」

 逃した魚が大きすぎて、諦め切れなかった。
 覚えているわけないよな、と思いながら聞いた。

「あ?……知らねーよ。……もうお前自分の部屋帰れよ……俺眠いんだけど」

 そう言うと蓮は夏掛けを首まで引き寄せ、ぷいっと俺のいる反対側の壁に、躯を向けた。

――言うと思ったけどさ……。

 途切れ途切れになる蓮の言葉と、籠もった声。本当に眠そうだ。
 でも……やっぱりこのチャンスをこのままフイには出来ない!

「お前、いいって言ったんだけど。していい?」
「やだよ……んなの知らねぇもん……」
――もん、っておい。可愛いじゃねーか。もう、煽ってどうすんだよ。
「えー、いいって言ったのに? 期待させといてずるくねぇ? なぁなぁ、ずるくね? ずるくね?」

 眠いところ可哀想かな、という思いもほんのちょっと脳裏を掠めたけれど。
――ごめん、蓮。

「なぁ、お前いいって言ったんだよ。……俺の気持ち知って……そんな期待させるなんて……」

 ベッド脇でしつこく言い続け、ついでに卑怯かとも思ったが同情も誘ってみた。

「……うっせぇなぁ……もーわかったよ……」
 
 それが功を奏したのか、蓮は渋々また仰向けになってくれた。

――よっしゃぁ!!

 瞬間、思わず心の中でガッツポーズを決めた。

「サンキュ、蓮」

 にやけそうになるのを必死で堪え、殊勝な態度を保って切なそうに微笑んだ。
 
「……ん」

 すると蓮は、目を閉じそう一言言うと顎を上げ、唇を差し出した。

「ぎゃ……っ」
――ぎゃぁぁぁっ、何それ何のサービスぅぅ!? 

 またしてもおかしな声が漏れそうになり、慌てて口を押さえた。
 いつもの待ち顔は、嫌そうに眉をしかめて、口もへの字にしている。
 でも、眠気に襲われている今の蓮は、眉毛はおとなしく下がっているし、顎を上げた状態で俺からのキスを待っている。
 こんな顔見せられて、簡単に寝られてたまるか。
 普通のキスだけで済むわけがない。

「ん……」

 ゆっくりと唇を重ねると、すぐにうっすらと開いていた隙間から自らの舌を差し込んだ。

「……っ!?」
 
 瞬間、ビクっと反応したと同時に蓮が目覚めたのを感じた。
 だけど、そんな蓮を無視して俺は蓮の舌を吹い上げ、夢中で舌を絡めた。

「っ、んーっ」
 
 当然蓮は俺を押し返し抵抗を見せたが、それもすぐにやめ、両手をパタリとシーツの上に落とした。

――蓮?
 
 もっと暴れるかと思っていた俺は、意外な蓮の行動に拍子抜けした。

――疲れているから? 眠いから? そんなに?
「ふ……っん……」

 そう思ったが、蓮は小さく躯を震わせてた。
 違う。眠いからじゃない。
 眠かったらこんなに反応するわけがない。
 
――うわ、やべぇ。コーフンするっ

 素直にディープキスを受け入れ、可愛いすぎる蓮の反応にゾクゾクと寒気が走った。
 わざと水音を立て、しつこく絡める。

「……はっ……あ」
 
 散々口腔内を蹂躙し、細い銀糸を引きながら唇と離すと、一緒に蓮の口から熱い息が漏れた。
 その声に含まれた艶に、思わずドキッとしてしまう。

――うあ、何今の。名残惜しいって事? 今日、このままもしかして……行けちゃう?
 
 いつもと違う蓮の反応に、うっかり調子に乗った途端、

「てめ……、ふざけん、な……よ」

 息を上げながら、蓮が睨み上げた。

「て、抵抗止めてあんなに感じておいて、なんで睨むかなー。てか、その潤んだ目で睨まれても、煽ってるだけなんだけど」
「な……っ」

 真っ赤になった蓮は、夏掛けを顔半分まで引き上げると、隠れるようにくるっと躯を横に向けた。

――だからぁ、そーゆーのが煽ってるって言ってるんだけどなぁ。
 
 可愛らしい蓮の行動に頬が緩む。

「てかさ、また怒られても困るから言っておくけど、舌入れていい? って聞いたら、お前うんって言ったんだぞ。これ、同意だからな」
「は、はぁ? んなの知らねーよ……いいからもう帰れ」
――あれ?

 いつものように言い合いになるかと構えたのに、あっさり話を切り上げた蓮に一瞬首を傾げた。

――が。
「早くもう帰れって」

 そう言って蓮がもぞもぞしながら背中を丸めた瞬間、ピンときた。

「なぁ、俺手伝ってやろうか?」

 ベッドに頬杖を突いて、ニヤニヤしながら丸くなった蓮の背中を見つめた。

「……何をだよ」
「勃っちゃったんだろ?」
「っ!」

 俺の台詞に、蓮は小さく身を縮めた。
 すぐに耳が真っ赤になった。

――ホント分かりやすいなぁ、蓮は。
「そりゃ、あんだけ感じてたら、仕方ないよなー」

 ニヤニヤしながら、蓮の背中にすーっと指でラインを引くと、

「ひぁっ」
 
 丸くなっていた背中が、ビクッと一瞬伸びた。

「お前の手、マメだらけだし潰れたの痛いだろ? 俺シてやるよ」

 その瞬間を逃さずベッドに乗り出すと、夏掛けを強引にめくり、背中から覗き込むようにして、強引に蓮の下着の中に手を伸ばした。

「いっ! いいって!やめろっ」

 下着の中でもぞもぞと、俺と蓮の左手がその先にあるものを巡って、攻防を繰り返す。

「あんまり暴れると、下に響くぞ」

 ギシギシとベッドが鳴っているのに気づいてそう言うと、ピタっと蓮の動きが止まった。
 階下にはおばさんがいる。
 ちょっと卑怯かなとも思ったが、本当の事だから仕方ない。

「ずりぃ……っ」
 
 痛いところを付かれるた蓮は渋々抵抗を止め、固くなっている自身を俺に譲った。

「まぁまぁ、俺に任せろって」

 耳に息を吹きかけながらそう囁き、手にしたものを優しく握る。

「っ、うぁっ」

 蓮が躯を小さく震わせると、手の中のものがまた大きくなった。
 羞恥心を堪え、震える蓮の横顔が妙に可愛くて色っぽい。

「蓮……」

 ゆっくりと握ったものを上下に扱く。

「ん、ふ……っ、んーっ」

 右手拳を口に寄せ、声を堪えている横顔がまた何とも言えず、俺を興奮させた。

――うあーーーーっ、くっそぉ! ヤリてぇーっ!!!

 ドクドクと心臓が激しく脈打つ。俺の下半身も蓮が欲しいと訴えている。
 今の蓮なら、本当にこのまま最後まで行けるかもしれない。
 もっと触りたい。抱きしめて、全身にキスして、蓮の全てを自分のものにしたい。
 ガチガチに固くなってる自分のモノを、蓮の中に挿れたい。がっちり繋がりたい。
 それで蓮をめちゃくちゃに乱れさせたい。
 俺の名前を呼びながら、すがりついて欲しい。
 必死で堪えながらそれでも漏れる甘い声と、俺の手で感じている蓮を前にグラグラと理性が崩れかける。

――でも――今はダメだっ。

 今蓮を抱くわけには行かない。
 我慢するって約束したし、それに大事な大会を控えている今が一番大事な時だ。その為に俺はここにいる。
 蓮の躯に不用意な負担をかけるわけには行かない。
 首を振っていけない妄想を追い出し、ダメだと必死に自分に言い聞かせるが、

「ん……っはっ、んっ」

 蓮の熱い息使いを側で聞いていると目眩がする。

――あーーーっ、俺の方がやばいぞ!

 じっくりねっとり攻めて感じている蓮を堪能しようと思っていたが、自分の方が限界だった。

「う、あぁ……っ!」
 
 このままでは理性(こっち)の方が先に崩壊しかねないと、不本意だが扱いているスピードをあげ、早々に蓮を絶頂に導いた。

「……あれ、蓮?」
「………………」
「寝たのかよ……」

 欲望を吐き出した後、俺が後始末をしているうちに蓮はそのまま眠りに落ちてしまった。
 どことなく、スッキリしたような顔で。
 蓮の寝顔を眺めながら、俺は小さくため息を吐いた。
 おばさんがいるからといっても、今までの蓮ならこんな事絶対に許さなかった。
 逆に頑なに拒否っていたはずだ。
 それなのに、舌を入れたときもあっさり抵抗を止めるし、俺に手でさせることも許した。
 確実に蓮との距離は縮まっている。 
 でも、距離が近づくと感じる度、欲求が強くなる。
 我慢がきかなくなりそうで怖い。

「んっ……ッッ」

 蓮が寝ている横で、高ぶった自分の熱も解放させた。

「はぁ……」

 手のひらに受け止めた白濁の液を眺め、再び大きなため息を吐いた。

「……こんなのでコーフンするなんてな……。バレたら、絶対引かれるわ……」

 はは、と自嘲する。
 蓮が寝ている隙に蓮の放った熱を手のひらに絡め、自分のモノに擦り付けてみた。
 途端に蓮のと自分の熱が混じり合っている状態に、たまらなく興奮した。
 聞いたばかりの蓮の甘い声を思い出し、俺に抱かれている姿を妄想し、寝息を聞きながら夢中で扱いた。

「いつまでもつかな、俺」

 自分の後処理をしながら、ため息を吐いて天井を仰いだ。
 好きな人の側にいることがこんなに辛いなんて思いもしなかった。
 今なら蓮が小木津を避けた気持ちが理解できる。
 でも――蓮は離れる事を選んだけれど、俺は側にいることを選んだ。
 離れる事なんて出来ない。どうしても蓮を失いたくない。
 でも俺はいつまで我慢出来るのだろうか。
 限界が来てしまったら、俺は一体どうするのだろうか……。
<16へ>