毎回初戦敗退だった喜多川高校が、公式戦初勝利を決めたその日の夜。
試合を終え帰ってきた蓮は、念願の初勝利を飾ったはずなのに、なぜかかなり機嫌が悪かった。
念願の初勝利に興奮し、俺は頑張って夕食は今まで蓮が「美味い」と言ってくれたものを、たくさん食卓に並べた。
少しでも喜んで欲しくて。
しかしリビングに入って開口一番、食卓に並んだご馳走に蓮は「こんなに食えないだろ」と言い放ち、美味いとは言ってくれるが、ずっとムスっとしていて笑顔がなかった。
あまりの不機嫌ぶりに、「あれ、試合って負けたっけ?」と、見てきた自分の記憶を疑った位だ。
それが何故かおかしな展開――俺からしたらとんでもないご褒美なのだが――に発展した。
気まずい空気の食事が終わり、席を立った蓮は突然「する?」と聞いてきた。
最初蓮の言葉が何を意味するのかわからず、焦った。
それがキスなのかセックスなのか、それとも他の何かなのか。
しかし「したいなら来いよ」と言われ、誘われるまま蓮の部屋に入ると蓮がこちらを向いて胡坐をかいた。
それでようやく蓮の意図が分かった。
一週間前――蓮を手でイかせた翌日、蓮の負けず嫌いな性格がまさかと思う方向に突っ走ったのだ。
よっぽど俺にイかされたのが悔しかったのか、「俺にもやらせろ」と言い出した。
俺からしたら特に拒否する理由はなかったので受け入れたが、それが意外な結果をもたらした。
手つきはぎこちなかったが、気持ちよかった。
しかし必死に俺をイかせようとしている蓮の姿があまりにも可愛いく、俺も我慢が出来なくなってしまったのだ。
当然蓮も最初はかなり抵抗したが、気持ちいいことに逆らえなかったのか、蓮のモノを手にした途端あっさり抵抗をやめた。
結果、いつの間にか「かき合い」に発展し、夢のような一夜を過ごした。
ただ、それはその日限りの出来事で、翌日以降は蓮にそんな雰囲気になりそうな様子など微塵もなかった。
何度も繰り返しあの時の蓮の姿を思い出しては、一人で自分を慰めていたので、もしかして全て妄想だったのではと思い始めていたほどだ。
そんな時に、突然2回目のチャンス到来。
何がなんだか、意味が分からない。
しかし蓮に触れられるこの機会を逃すなんてバカな事はしない。
戸惑いつつ誘われるまま蓮と向かい、その躯を挟むように膝を立てて座る。
「……えっと……どうしよっか……」
が、いまいち始めるタイミングがわからず困惑してしまった。
前回は蓮がおかしなテンションだったので、命令口調の蓮の言われるままに下着を脱ぎ、その勢いで始まった。
だからこう、かしこまって意識してしまうと始めるきっかけを掴むのに悩んでしまった。
しかもずっと蓮の機嫌が悪いままなので、部屋の空気も相変わらず重い。
この状況で、いきなり脱ぎ出すのは勇気がいる。
蓮も脱ぐ気配はない。俺の動向に任せようとしているのが分かった。
「……なぁ、蓮。キスしていい?」
考えた末、蓮にダメ元で雰囲気作りとして提案をしてみた。
「はぁ? どさくさに紛れて何言ってんだよ」
当然蓮は眉を顰めるが、このままではずっとどちらが動くか探り合っているだけだ。
「じゃぁ蓮、今脱げる? 曝け出せる? こーゆー事ってさ、なんつーか雰囲気って必要じゃね?」
「そ……そう言われると……」
「だろ? だからさキスしてさ、こう……流れでさお互いのものに手を伸ばしたほうがやりやすくない?」
それが一番自然な流れだと考えての事だが、なんて都合のいい言い訳だろうとも思った。
蓮に堂々とキス出来るなんて。
しかも、その流れを作りという事は、結構いい感じに盛り上がるまでずっと何回も出来るって事で。
「雰囲気作り」という目的でするのだから、もちろんいつもの触れるだけので済むはずがない。
舌をめちゃくちゃに絡めた蓮との濃厚なキス――想像しただけで勃っちゃいそうだ。
「やっぱダメ……?」
蓮の顔色を伺う。
しかし、そんな自分に都合のいい提案を蓮が受け入れるわけがない。
「それならやめる」と言われるのは覚悟の上だったが、
「……わかった」
数秒間考えると、蓮は頷いた。
――マジでぇ?!
本当に今日はどうしたんだろう。
「じゃ、じゃー目、瞑って」
気が変わらないうちにと、ソワソワドキドキしながら蓮との距離を縮める。
蓮は一瞬ちょっと体を引いたが、躊躇いがちに少し目を泳がせた後、少し顔を上げて目を閉じた。
「−−!!」
正真正銘、俺からのキスを待っている蓮を目の前にして、思わず生唾を飲み込んだ。
――マジやばい。うわ、この顔ずっと眺めていたい。てか、写真撮りてぇぇー!
思わず周囲を見回し携帯を探すが、蓮の眉間に一瞬皺が寄ったのに気が付くと、そんな事をしている暇はないと我に返り、蓮の首に片手を回してゆっくり唇を重ねた。
「んっ」
ビクっとした蓮の仕草、それが合図となりすぐに俺の中で何かが切れてしまった。
すぐに自分の舌を差し入れ、蓮の口腔内を蹂躙した。
さすがに最初は抵抗してキスを中断させようとしたが、逃げられる前に両手で頭をがっちり押さえている。
蓮が大人しくなるまで、目的の「雰囲気」になるまで、夢中で舌を絡めた。
数分後、諦めたのか蓮の抵抗が収まったのを確認すると、頭の拘束を緩めキスをしながら蓮の下着に手を入れた。
それがもう充分勃っているのを知ると、俺とのキスでこうなったんだと思いますます高揚し、蓮のを扱きながら再び舌を絡めたキスを再開した。
「あ……っ、んっ……」
唇を離すと、蓮は途端に崩れるように俺の肩に額を乗せた。
ドキッと胸が鳴る。
蓮の熱い息が俺の肩に掛かる度、このまま蓮を抱きたいと躯の奥が疼く。
こんな事をしているけれど、抱くどころか、抱き寄せる事も出来ない。
やっとここまで近づけたんだ。
焦っちゃだめだと、ここは我慢だと誘惑を振り切り、いっぱいに張りつめた蓮を優しく愛撫する。
蓮も息をあげながら俺のものを握り、そして互いに扱きあった。
「蓮……、気持ち、いい?」
「っ……ん」
蓮を上下に扱きながら耳元に口を寄せて囁くと、蓮はビクッと身を縮めながら小さく頷いた。
――う……。すっげぇかわいい……
思わずきゅんとしてしまった。
――なんで今日はこんなにサービス満点なんだ??
頬を赤らめ息を乱している蓮を目の前に、俺は不意に今日の試合前の出来事を思い出した。
蓮が俺の事を捜して、そして見つけた瞬間笑った事を。
――もしかして俺のこと好きになったとか……いや。いやいやいやいや! まさかぁ。でも、じゃなかったら俺へのご褒美?
え、勝つ度にこんなオイシイ展開が待ってんの? あ、それとも……。
ズキッと胸が痛んだ。
――もしかして、隼人に声を掛けてもらえたから? その……お礼とか?
色々な可能性を考えては打ち消し、脳の片隅で色々考えながら俺は空いている手で蓮の頭を抱えた。
「んっ……」
深く深く口付ける。
――なに萎えそうな事考えてんだよ。俺のバカ!
蓮は今俺のキスを素直に受け入れてくれている。今はそれだけで充分だ。
とにかく今は目の前の蓮に集中すべき。
最後までする事はもちろん出来ないけれど、どさくさに紛れて蓮の首筋や耳元にも唇を落とし、その口から漏れる甘い声を俺は聞きまくった。