「蓮、水飲む?」
ぐったりとベッドに突っ伏している蓮に声をかけるが、返事がない。
「蓮? れーん?」
何度呼んでも返事がない。寝ているわけではないのは、何となくわかった。
起きているのに蓮は俺を無視している。
「蓮ってば」
ムッとしたので、蓮の首にキッチンから持ってきた冷たい水のペットボトルを充てた。
「うわぁっ!」
驚いてばっと顔を上げると、
「何すんだよっ」
首を押さえながら俺を睨み上げた。
「飲む?」
「……いらねぇ」
ペットボトルを見せ、にっこりと優しく微笑んだつもりだったのに、そう一言言うと、蓮はまた顔を伏せてしまった。
「何怒ってんだよ。同意だろ? お前だってあんなに善がって――」
ようやく身も心も結ばれ幸せの絶頂のはずなのに、蓮のそんなふてくされた態度が面白くなくて思わず文句を言うと、枕を投げつけられた。
「うるせぇ! いきなり無茶しすぎなんだよ!」
終わった後もずっと上気させたままの顔でそう怒鳴ると、蓮はまたボスッとベッドに顔を埋めた。
「あー悪ぃ。だってお前、すんげー可愛かったんだもん。そりゃ止まらなくなるって」
落として転がったペットボトルと枕を広い、ベッドに腰をかけると、
「人のせいにするな。ケダモノ」
連は再び俺の方に振り向いて、キッと睨んだ。
だって本当にそうなんだから仕方ない。
想像以上に蓮の反応が愛おしく、そもそも最初から崩れかけていた理性はあっさり崩壊。
しかも1度終わった後、汚れてしまった蓮の躯を拭いているうちにうっかり復活。
我慢できずに2回戦をしかけた。
2度目は余裕が出て蓮の事を気遣いながらじっくり堪能する事が出来たが、それでも躯を繋げてしまうとそのあまりの気持ちよさに、またプツっと途中で理性を手放してしまった。
そして蓮の躯に夢中になり、気がつけば立て続けに3度目までしてしまった。
しかも最後はバックで。
蓮への気持ちに気づき、今までの遊びを止め蓮一筋に絞って1ヶ月。
当然誰ともしてなく溜まっていたとはいえ、こんなに夢中で求めたのは、初めてだった。
特にバックはやばかった。本当に夢中になった。
背後から見る蓮の姿は衝撃的にいやらしいし、自分のモノも根元まで深く入る上、蓮の締り具合もかなりヤバく――これはもう本当にハマる。
思い出すだけでゾクゾクするくらいだ。
「休みが明日まででホント助かった……」
おかげで蓮はぐったりとベッドに伏せている。
――が、俺は逆に今までの欲求不満が解消されスッキリした。
それだけじゃなく、あんなに動いたのに疲れるどころか、力が漲っている気さえする。
蓮の躯はかなりやばい。こんなセックスは初めてだ。
ぶっちゃけ蓮がいいって言ってくれれば、何回だって出来そうな気がする。
それこそ一晩中抱き合える自信がある。
これは感情だけの問題なのだろうか。
それとも、やはり蓮の躯の問題なのだろうか。
躯の相性というものだろうか。
――躯の相性?! なにそれすげーエロい!
「悪かったって。でもさ、今までこんなに夢中になってしたの、本当にお前が初めてなんだよ。それくらいお前の事好きなんだってゆーのは、わかってよ」
頭の中にひらめいた、官能的な響きを持つ言葉に、口元を緩めながら睨む蓮の瞼に軽くキスを落とした。
「……今まで、ねぇ。どんだけ経験してんだか」
しかし蓮はそう言いうと、眉を寄せ、ふーと息を吐きながらゆっくりと起きあがった。
「――あ! いや、いやそんなないけどっ! 今はお前一筋だから! 遊んでた女友達も全員切ったし!」
含みのある蓮の言い方にハッとして、慌ててフォローをするが、
「……やっぱ遊んでたんだ。チャラくなったと思ってたよ。なんかすげぇ手慣れてたし、財布にゴムも入れてるしさ」
余計な事を言い過ぎて、逆に墓穴を掘ってしまった。
蓮の呆れた口調と、意外な指摘にギクッとして硬直してしまった。
「な……んでそれ」
「前、宅急便の金払っておいてって財布渡されたじゃん」
そう言えば、買いに行く暇がないからと、CDを通販で買った時、着払いの宅急便が料理中に届いた事があった。
家政夫を初めたばかりの頃だ。
家事に手一杯で、財布の中にコンドームを入れていた事なんてすっかり忘れていた。存在すら忘れてたくらいだ。
迂闊だった。
アレを見られたから、余計に警戒されていたのかもしれない。
今思えば初めて舌を入れてキスをしたあの時、蓮があんなに抵抗したのは俺が「遊んでいる奴」だったから、「遊ばれている」と思ったのかもしれない。
自分から蓮を遠ざけていたなんてと、額を押さえてはぁ〜〜とため息を吐くと、
「大丈夫か!? あ、頭痛い?」
何を勘違いしたのか、蓮が慌てた様子で顔を覗き込んできた。
「え? いや、大丈夫だけど。何で?」
突然の事にきょとんとしながら返すと、
「なんでって……お前昨日、頭打って入院してたんだぞ? なのに……その……何度も……」
呆れた顔をしながら、次第に頬を赤らめ口ごもっていく蓮を見て、ようやく思い出した。
「あー、頭ね」
すっかり忘れていた。うっかり額を押さえたからびっくりしたのか。
「だから大丈夫だって。母さんもお前も心配しすぎなんだよ」
電話でもなんか様子がおかしい、やたら優しいなと思っていたが、まだ蓮は俺の容態を気にしているようだった。
しかも頭を打っているのに、興奮させて何度もした事を蓮は気にしてるらしかった。
蓮らしいけど、なんだってそんなに過敏になるんだろう。
「まぁお前と何回も天国にイったけどなー」
そんなくだらない事を言ってへへっと笑うと、
「バカな事言ってんなよ! お前昨日病院で、もし打ち所が悪かったらとか、今のうちにとか、おかしな事言ってたんだぞ」
なぜか真顔で怒鳴られた。
「へ? だってそう思ったんだもん。言えるうちにいっぱい言っといた方がいいじゃん」
「それ! それ死亡フラグって言うんだぞ! そういう事言う奴は死ぬんだって内原先輩が言ってたんだから」
なんでそんな事で怒っているのかと首を傾げると、蓮は訳の分からないことをまくし立てた。
「は?」
思わずポカンと蓮を見つめた。
なんかおかしいと思ったら、そーゆー事だったのか。
俺が蒔いた種がおかしな育ち方をしてしまったようだ。
完全に計算外。
蓮の中で、俺は死ぬかもしれない危険な状態にされていたと言うわけだ。
頭なんかを打っちゃったもんだから尚更、蓮の妄想に拍車がかかったんだな。
「ちゃんと病院の先生にも大丈夫だって言われてんだから、死なねーよ。大丈夫だって。てか誰だよ、内原先輩って」
ケラケラ笑って、蓮の妄想を否定した。
そもそも、死にそうなヤツが三回も立て続けに出来るかっつーの。
ろくにTVを見ないやつに、変な言葉教えんなよ。しかも使い方なんか違うし。
てか、だったら「ツンデレ」っつーのも教えとけよ、先輩。
――と、顔も知らない蓮の先輩に心の中で文句を言うが、
「笑い事じゃねーよ! 昨日も今日も俺すっげー心配したんだからなっ! わかってんのかよ!」
真っ赤になって本気で怒っている蓮を前に、「いや、やっぱナイスセンパイ!」と、感謝した。
そんなに俺の心配をしてくれたという事実が、嬉しい。
ずっと俺の事で頭がいっぱいだったと、うっかりしゃべっている事に、気が付いていない蓮も愛おしい。
「悪い。ごめんって。心配してくれてありがとな、蓮」
そう言って蓮の肩を抱き、チュッと軽くキスをした。
「こっ、こんなんで誤魔化したつもりかよ……」
そう言う割に、ついさっきまで怒鳴っていた勢いはすっかりなくなった。
口を尖らせながらぷいっと顔を逸らすが、逸らしたのは顔だけで肩に置いた俺の手は振り払わず、躯は寄り添ったまま。
――うーーーわぁ。なに、なんか俺ら今すっげーラブラブじゃね?? 蓮、可愛すぎるーーーっ
いくら堪えても口が緩む。ドキドキしっぱなしで、気を抜くとまた元気になっちゃいそうな勢いだ。
コホン、と咳払いをして、気持ちを落ち着かせると、
「なぁ、蓮」
優しく呼びかけた。
「何?」
大笑いされて不機嫌になった蓮が、そっぽを向いたままぶっきらぼうに返事をする。
そんな姿も可愛い。
「で、お前は俺が死んだらって考えて、どう思ったの?」
「は?」
そう言うと、蓮が眉をしかめたまま振り返った。
「――っ」
と、鼻先が触れそうなくらいの至近距離で目が合い、驚いた蓮が息を飲むのに引き寄せられて、思わずまたキスしてしまった。
「んっ……」
漏れ聞こえた蓮の声に、躯の奥がズキンと疼いた。
――やばっ
返事が聞きたかったのに、信じられない嬉しい言葉をきっと言ってくれるんじゃないかと思っていたのに。
「はぁ……っふ……っんっ」
気がついたら答えを言う唇を自分で塞いで、舌を絡めていた。
もう3回もしてるし、蓮の躯もフラフラだし、さすがにこれ以上はやばいと思っているのに、心とは裏腹にどんどんキスは深くなっていく。
舌を絡めながら、再び蓮を押し倒す。
「ちょ、おいっ……、トモっ、い、いい加減、に……っ」
唇が離れると、蓮が戸惑いながら俺の行為を咎めるが、
「ごめんっ……なんか、止まんないっ……」
「あっ、んっ、トモっ……ちょ、あ……ッ」
何度もイっている躯は、甘い刺激に過敏に反応してしまう。
お互いに無理だとダメだと思いつつ、蓮も俺も結局止める事が出来ず、また衝動のまま再び躯を重ねた。