「修学旅行ぉ〜〜?」
最後の公式大会が終わり、野球部もオフシーズンに入る11月上旬。
3日後の木曜から始まる修学旅行への準備を始めようと、蓮が荷物を詰め込み始めていと、朋久が不満そうな声をあげた。
「うるせぇなぁ。前に言ったろ?」
「聞いてねぇよ!」
「言ったよ」
「嘘だぁ!!」
最初は家出でもするのかと勘違いをして騒ぎ出し、事情を説明すると今度は聞いていないと騒ぎ出す。
確かに先月は中間テストや、朋久から蓮と続いて熱を出したり(※FEVER参照)とバタバタしていた。
が、それよりも前に朋久には修学旅行の日程を伝えてある。
今更大騒ぎされてもどうしようもないし、そもそも何も出来ない。
「えー、どこ行くの? 何泊?」
「北海道。2泊3日だから土曜に帰ってくる。多分寒いよなぁ。ってことはコートは必要だろ? マフラーは……んー一応持って行こうかなぁ」
朋久を無視し、蓮がクローゼットを開け、持っていく私服を選んでいると、
「ええ〜〜〜! 3日?? 3日も会えないの? 耐えられねーーーー!」
朋久はベッド飛び乗り、うつ伏せになって駄々っ子のように足をバタバタし駄々を捏ね始めた。
「うるさいっ! 暴れるな!」
いい加減頭にきてそう怒鳴ると、朋久の足はパタと止まった。
「いいなぁ〜〜やっぱ俺も喜多川行けばよかったぁ〜〜。あ、ちゃんとマメにメールしろよな!!」
「もう、いい加減にしろよ。ちなみに、うちは旅行中はカメラ以外での携帯使用禁止だから。そんな連絡出来ねーよ」
「ええええええ?! 俺んトコは携帯OKだぞ!! つーかメールくらいこっそり出来るんじゃんか」
「てめーんトコのチャラ高と一緒にすんな。去年まで禁止だったんだから、持っていけるだけありがたいんだよ。あと、野球部は品行方正がモットーなんで、規律違反は出来ませんっ」
「えええ〜〜」
朋久は不満そうにぶーっと頬を膨らませるが、何を言っても仕方のないことなのにと呆れる。
実際、去年までは修学旅行に携帯を持っていくのは禁止だったらしい。
ようやく今年、緊急事態の連絡ツールとして持たせたいという保護者の訴えと、デジカメ代わりに使いたいという生徒の訴えで、持ち込み許可が出たのだ。
ただ、「学習」の一環という事で、授業中と同じ扱いで自由行動といえども見学中のメールや通話はNG。
自由に使えるのはホテルでのみとなる。
規律の緩い朋久の学校と比べられても困る。
「……なぁ蓮」
相手をしてられないと、蓮は朋久を無視して黙々と荷物をカバンに詰め込む。
「蓮ってばぁ。なぁ、れーんれん」
「何だよっ」
しつこく名前を呼ぶので仕方なく振り向くと、朋久は頬杖を突きながら蓮をじっと見つめていた。
「な……何だよ」
思わずドキッとして目を逸らしてしまった。
――が。
「……浮気すんなよな」
「はぁ?」
再び朋久の方を振り帰った。
「だって! 修学旅行ってカップル成立率高いんだぞ? お前カッコイイし頭いいし、絶対告白されるだろ。旅行で気分が盛り上がったからって、うっかりだって言ったって、浮気とか俺ぜってぇ許さねーからなっ」
ガバッと飛び起きると、朋久は蓮が荷物を詰め込んでいる旅行カバンの前に座り込んだ。
突拍子のない事を言い出す朋久に、蓮ははぁ、とため息を吐いた。
確かに今、旅行前の駆け込み的にカップルが続々出来上がっているが、自分には無縁だと思っている。
クラスの班も男女混合ではなく男だけだし、自由行動は野球部のメンバーと動く予定だ。
そこでなぜ浮気の心配をされなくてはならない。
「一体なんの心配してんだよ……」
うっかりトキメいてしまった自分が情けない。
「石岡か隼人にお前の監視頼もうかなー」
「んなことに巻き込むんじゃねーよ」
小木津はともかく、二人の関係を知らない石岡まで巻き込まれたらたまったもんじゃない。
石岡もいい迷惑だろう。
朋久の妄想に心底呆れる。
「じゃぁ、旅行まで毎日しよ♪」
しかしそんな蓮の気持ちなど全く気にしていない朋久は、にこっと笑うと旅行カバンを飛び越え蓮を押し倒した。
「ちょっ、じゃぁってなんだよっ!」
「3日も会えないし出来ないんだから、その分。な? ちゃんと愛を確かめ合わないと」
あっさりと組み敷かれた蓮が朋久を押し返そうとするが、肩を抑えられ動けない。
「ふざけんな! ちょ、トモっ! まだ支度終わってねぇんだよ!!」
蓮が今度は足をバタバタさせる番だった。
「まだ3日あるじゃん」
しかし、
「ちょ、おいっ……んッ」
騒ぎたてる蓮の口を朋久に塞がれると、蓮の足(抵抗)が止まった。
――あー、もう……。
また流されてる……と強引な朋久に甘い自分に呆れる。
しかし、この件で朋久が機嫌を損ねたら、本当に石岡達に面倒をかけることになってしまうと思うと、無事に修学旅行に出かけるためには
朋久が満足するまで付き合うしかないか……と諦めるしかなかった。
・・・end・・・その後の話をUPしました>>
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