1年に一度の特別な日(前日編)

付き合い始めて初めて迎える朋久の誕生日。
蓮sideから書き始めたんだけど、朋久sideも書いてみたらどっちもいいなぁと思って両方載せました。


〜1ヵ月前……蓮side〜
 
 「ねぇ、あの○印何? 4月9日」

 4月頭、新しくなったカレンダーを見た母礼子が、首を傾げて朋久に訊いた。

「蓮に聞いてください♪」
「は?! なんで俺?」
「ね、なんなの? なにがあるの?」
「……入学式かなんかじゃねーの?」
「入学式? なんで? あんたなんかやるの?」
「えー? 蓮なんだよその回答〜」
「もう、お前が書いたんだからお前が答えろよっ」


 4月9日の○印――蓮はその意味を知らないわけじゃなかった。
 しかしあからさますぎるアピールにうんざりしているのだ。

「春休み明けだからさ、みーんなそんな事忘れちゃうし、新学期で仲良くなってもその時にはもう過ぎちゃってんだよねー」

 4月9日は朋久の誕生日。
 朋久と出会って最初に誕生日を聞いた時、そんな事を言われた。
 共働きで忙しい両親に、一度誕生日を忘れられた経験があった蓮は、それを聞いて以来、朋久の誕生日を忘れたことはなかった。
 中学になって疎遠になっても、桜の季節になると毎年朋久の誕生日を思い出していた。
 それなのに。
 わざわざ蓮にその印の意味を言わせるようにし向けるなんて、試されているようで腹が立つ。

「えー俺の誕生日じゃーん。忘れちゃったの?」
「うっっぜぇ」

 朋久はいつの間にかトイレやリビングなどの家中のカレンダー、すべてに4月9日に○を付けていた。
 家のカレンダーは1ヶ月毎のものなので、礼子は4月になってから気がついたが、蓮の部屋の2ヶ月表示のカレンダーには、すでに3月の段階でその印が付けられていた。
 2月が終わってカレンダーを破った瞬間、それに気が付き、ハッとしたと同時に無性に腹が立った。
 本当に忘れてたなら、それほど気にならなかったのかもしれないが、ちゃんと覚えていた分余計に腹が立つ。
 朋久はずっと訊いて欲しいオーラをまき散らしていたが、蓮はあえてカレンダーの印に触れずにいた。

「え? トモ君の誕生日なの? あら、じゃぁお祝いしないとね」
「わーありがとうございます!」
「お誕生日はおばさんがご馳走作ってあげる! 特にいつもトモ君にお世話になっているんだから、蓮も手伝うのよ」

 こう言う礼子の余計な一言にも、蓮はカチンとする。

「は? やだよ。そんなのトモが勝手にやってる事だろ。別に俺が頼んだ訳じゃねーもん」

 イライラしてつい、言わなくていい事まで言ってしまう。

「蓮!なんでそういう事言うの? トモ君はあんたの為に――」
「まぁまぁ、おばさん。蓮の言うとおり俺が勝手に世話焼いてるだけだし」

 当の本人は苦笑いを浮かべながら、礼子を宥めている。
 なんなんだろう。このイライラする気持ち。
 これでは自分だけが悪者だ。

「か、感謝してないなんて言ってないだろ。ちゃんとお……俺なりに考えてるよっ」

 冷たい子だと非難する礼子にそう弁解するが、言いながら顔が赤くなっていくのが自分でもわかった。
 礼子に言っているが、その場にいる朋久にももちろん聞かれているわけで。

「蓮――」

 驚いたような朋久の声にますます顔が熱くなった蓮は、

「風呂入ってくるっ」

 そう言って逃げるようにリビングを出て、バスルームに駆け込んだ。
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