1年に一度の特別な日(前日編)

付き合い始めて初めて迎える朋久の誕生日。
蓮sideから書き始めたんだけど、朋久sideも書いてみたらどっちもいいなぁと思って両方載せました。


〜1ヵ月前……朋久side〜

「ねぇ、あの○印何? 4月9日」

 4月頭、新しくなったカレンダーを見た蓮の母・礼子が首を傾げて食器を片づけていた朋久に訊いた。

「蓮に聞いてください♪」

 しかし自分では答えず朋久はにやけながら、ソファでテレビを見ていた蓮に答えを振った。

「は?! なんで俺?」

 突然話を振られた蓮は驚いて朋久を睨みつけた。

「ね、なんなの? なにがあるの?」
「えっと……入学式かなんかじゃね?」

 礼子の質問に蓮はあからさまに面倒くさそうな声でそう適当に答えた。
 4月9日の○印――蓮がその意味を分かっていないとは思っていなかった。
 小学校まではずっと覚えていてくれて、毎年この日を蓮は一緒に祝ってくれた。
 でも、4年間もの離れていた月日の中で、もしかして忘れてしまったかもしれないと思った。
 だから印を付けた。

「入学式? なんで? あんたなんかやるの?」
「えー? 蓮なんだよその回答〜」
「もう、お前が書いたんだからお前が答えろよっ」

 でも、その言い方で蓮がその日を忘れていたわけではない事が朋久にはわかった。
 顔をほんのり赤らめて焦る蓮を見て、思わず顔がにやける。

――覚えていてくれてんじゃん。

「えー俺の誕生日じゃーん。忘れちゃったの?」

にやける顔を抑えつつ、あえて不満そうにそう言うと、

「知るかよ。うっっぜぇなぁ」

 蓮は心底ウザそうに悪態を吐くと、落ち着きなくテレビのチャンネルを次々と変えていった。
 その態度でますます確信する。
 4月9日は朋久の誕生日。
 蓮にどうしても「おめでとう」と言って欲しくて、3月中頃から朋久はトイレやリビングなどの家中のカレンダーのすべてに誕生日である4月9日に○を付けた。
 蓮の部屋は2ヶ月表示のカレンダーだったので、2月のうちにこっそり印を付けた。
 しかし、今日礼子が気が付くまで、蓮は一言もその印の話をしなかった。
 だからもしかして忘れてしまったのかと落胆していたけれど、どうやら逆だったようだ。

「え? トモ君の誕生日なの? あら、じゃぁお祝いしないとね」
「わーありがとうございます!」
「お誕生日はおばさんがご馳走作ってあげる! 特にいつもトモ君にお世話になっているんだから、蓮も手伝うのよ」
「は? やだよ。そんなのトモが勝手にやってる事だろ。別に俺が頼んだ訳じゃねーもん」

 朋久の誕生日だと知って喜んでくれた礼子が蓮にもそう言いつけるが、案の定蓮は興味ないとばかりに悪態を吐く。
 確かに蓮の言う通り勝手に押し掛け、しかも下心付きで始めた事だし、今では蓮の心も手に入れる事が出来て、毎日一緒にいられてラブラブで幸せ一杯だ。
 だから別に感謝して欲しいなんて事はこれっぽっちも思っていなかった。
 ――が、そんな蓮の態度を礼子が非難すると、

「か、感謝してないなんて言ってないだろ。ちゃんとお……俺なりに考えてるよっ」

 言い訳っぽくではあるが、慌ててそう言ってくれた。
 言った後に朋久の存在に気が付いて、蓮はハッとして顔が赤くなっていった。
 ただ蓮に昔のように開口一番「おめでとう」と言って欲しかっただけ。
 一緒に誕生日を過ごすだけでよかったのだけれど、改めてそう言われるとやっぱり嬉しい。
 蓮から「感謝してる」なんて言葉を聞けるなんて思っても見なかった。
 しかも誕生日になにかしようと考えてくれていたなんて。

「蓮――」

 思いも寄らない告白に、思わず言葉が詰まる。
 礼子がいなかったら、キッチンから飛び出して抱きしめていたと思う。

「風呂入ってくるっ」

 朋久が感激しているのを察したのか、蓮は真っ赤な顔をして逃げるようにリビングを出ていった。

「なによ。それならそうと言えばいいのに、素直じゃないんだから」

 蓮の様子に礼子が呆れたように呟くと、朋久は思わず噴出した。
 礼子にもそう言われてしまうバレバレの天邪鬼っぷりが、本当に愛おしい。
 波乱のクリスマス以降少し言動が柔らかくなった蓮だが、礼子がいると昔のようにツンケンした態度に戻る。
 それがいかにも朋久の事を意識しすぎている態度なので、より可愛いく見えるのだ。

「でも俺、蓮のあーゆートコすごく好きですよ」

 礼子相手に朋久は笑顔でそうフォローする。

「そう? おばさんはトモ君みたいな素直な子の方が可愛いし好きだけどなぁ」
「蓮はそこが可愛いんですよぉ。真っ赤になっちゃったりして」
「そんな風に言ってくれるなんて、トモ君は本当にいい子よねぇ〜」

 朋久の言葉の意味を深く考える事無く、礼子は素直に受け流してくれる。
 礼子が家にいる日は蓮とイチャつく事は出来ないが、こんな風に礼子と蓮について話をするのは楽しい。
 結婚したらこんな感じかなとか、早瀬家の一員になったような錯覚を起こす。
 こんな話をしていると蓮が知ったら、顔を真っ赤にして怒る気がするので内緒だけれど。

――ってゆーか、蓮、一体何してくれるんだろ。プレゼントかな♪ あ、まさか……。

 自分の為に蓮が何かしようとしていて考えていてくれていた事を思い出し、ふと脳裏を過ぎったものに思わず口を押さえた。

「うひゃぁっ!!」
「わ、どうしたの?」
「あ、いえ! なんでもないです。はは」

 突然の奇声に驚く礼子に、朋久は笑って誤魔化した。

――母親前にしてなんつー妄想をしてんだよ、俺っ。

「……今日だけだからな」とか下手な言い訳をしながら「好きにしていい」と恥じらいながらも自らベッドに乗ってくる蓮の姿をうっかり想像してしまった。

――ありえねー。ないない。さすがにそれはない。期待しすぎだっつーの。

 いくら蓮の態度が柔らかくなったからと言って、それはないと朋久は首を振って自分を諌めた。
 誕生日当日、礼子は休みだと言っていたので妄想のような蓮とのイチャイチャバースデーは絶望的。
 それでも何か蓮が自分の為に考えていてくれているのは確実で、それがエロネタではくても、朋久は一層誕生日が待ち遠しくなった。

>>当日編へ