ハッピー★サプライズ
18歳の蓮の誕生日話。
朋久の誕生日でエロ書いたので、こっちは普通に?ハッピーな感じにしました。
ラブラブです。
部活が終わって帰宅途中の夜8時半。
家に向かう最後の曲がり角をそのまま通り過ぎて、蓮はその先にある大きなマンションに向かった。
その1階の広いエントランスで807号室のインターフォンを鳴らす。
『はーいー?』
「あ、こんばんは。早瀬ですけど」
『おー蓮。今開けるー』
インターフォンに出た朋久の声に少しホッとしたのも束の間、目の前のガラスドアが突然ガーっと開くと、思わずビクッとしてしまった。
突然「帰り実家に寄って」とメールをもらい、朋久の家に来たはいいが、蓮は未だに慣れない。
幼い頃から「秘密基地みたいだ」と朋久の家に行く度、このオートロックシステムにドキドキしていた。
あれからもう何度も来ているのに、今もまだ一人でここに来ると妙な緊張感と高揚感が付きまとう。
ドキドキしながら開いたドアから中に入り、エレベーターで8階に向かう。
ようやく807号室に着き、再度インターフォンを鳴らすと、
「おーいらっしゃい」
すぐにドアが開き、ひょこっと朋久が顔を出した。
そこでようやくホッと気持ちが落ち着く。
「なんなんだよ、突然」
しかし、突然の朋久宅への招待と、妙にご機嫌な朋久の笑顔に胡散臭さを感じた蓮は眉を顰めた。
「ままま。いいから早くあがれよ」
「……お邪魔します」
何かを企んでいるような嫌な予感を感じつつ、とりあえず蓮は促されるまま玄関を上がった。
「母さんが夕飯用意してるからさ。リビング行ってー」
メールでもそう言っていたが、滅多に実家に帰らない朋久が、テスト期間でもないのに実家にいること自体が珍しい。
それに「今日」は二人で過ごすものだと思っていたのだから、なおさらだ。
首を傾げつつリビングのドアをドアを開けると、突然「パーン!」という盛大な音に出迎えられた。
「わっ!」
同時に目の前に細かい紙吹雪が舞う。
驚きの余り、ドアノブに手をかけた状態で固まっていると、
「蓮君、お誕生日おめでとう!」
朋久の妹・美波がぴょん、と蓮の目の前に現れた。
「え? あ、ありがとう……えっと、あのこれって……」
美波の言葉にハッと気づき、朋久の方を振り向く。
朋久は先ほどの何か企んでいるようなニヤニヤした笑みではなく、嬉しそうな笑顔に変わっていた。
「お前の誕生会だよ」
「え?」
「そうなの。トモの誕生日、色々よくしてくれたって聞いて。じゃー蓮君はうちでお祝いしようって。ねー」
朋久の母親・朋美がそう言って美波と顔を合わせにっこりと笑った。
夏の県大会開会式を1週間後に控えた6月30日――今日は蓮の18歳の誕生日だ。
朋久の事だから何かしらやらかすのではと思っていたが、こうくるとは考えもつかなかった。
母・礼子が夜勤という事も重なって、てっきり二人きりで過ごすものだと思っていた。
「そういうことー♪ ささ、座って座って」
驚いて呆然と突っ立ている蓮を、朋久は後ろからグイグイ押し、いつもの席――朋久の隣に座らせた。
小学校の頃は忙しい母・礼子の代わりに、朋久の母・朋美が色々世話を焼いてくれ、ほぼ毎日この家にいた。
その頃からそこが蓮の席だ。
「さ、始めましょうか」
蓮の前に、ケーキを運んできた美波が、その隣に朋美が座ると、ささやかな誕生会が始まった。
ケーキの他に、テーブルの上には蓮の好物ばかりが並んでいる。
その中に、松戸家の食卓ではあまり見ないものが混じっていた。
「あれ? これ……」
「それ、お兄ちゃんが作ったんだよ」
「え、トモが?」
驚いて朋久をチラッと見ると、またニヤニヤした顔で笑っていた。
「蓮君、これ大好きなんだってお兄ちゃん言ってたけど、お稲荷さん好きなの?」
「あ、うん……」
テーブルの真ん中にあったのは、蓮の好物の稲荷寿司だった。
しかも、朋久の手作りだという。
「蓮、早くそれ食べてみてよ」
「……いただきます」
ウキウキしている朋久に言われ、稲荷寿司を取り口に運んだ。
「どう? ね、どう??」
「美味い……。母さんの味だ」
「だろー♪」
「なんで? どうしてこれ……」
今まで食べてきたものと同じに味に驚き、思わず朋久を見つめた。
「あれからおばさんに頼み込んで、教えてもらって。必死で練習したんだー」
満足そうな笑みで得意げに言うが、蓮に気づかれないように今日まで隠して稲荷寿司を作る練習をするなんて、そう容易な事ではないだろう。
酢の匂いはすぐに気づく。
しかも、祖母に教わっていた時に母も愚痴っていたほど、同じ味を作るのが難しいレシピらしいのに。
「あら、本当。すごく美味しい」
「本当だー。おいしー」
朋久作の稲荷寿司を口にして、朋美と美波も驚く。
「お兄ちゃんやるじゃんー。ね、私にも教えてよ」
「嫌だね。これは早瀬家の味だからな。モンガイシシツのレシピなんだよ。それに簡単な料理すら作れねーような不器用なお前にはまず無理だし」
「そ、そんな事ないよ! 料理くらい出来るもん! それにモンガイシシツって何? 門外不出でしょ。バカな
のに何難しい言葉使おうとしてんの? ププー」
周りの好評価に調子の乗った朋久が美波を軽くバカにすると、ムッとした美波はその倍の嫌味で応戦した。
「バカって言うな! お前なんてカレーすらまともに作れねー、頭でっかちの超絶不器用のクセに」
「カレーくらい作れるし! お料理だってしてるもん! この唐揚げだって私が作ったんだから!!」
すると、いつもの兄妹バトルが始まった。
「どうせ母さんの用意したヤツ混ぜただけだろ? あー、あれか。蓮がいるから家庭的キャラ作ってんのか。
無理無理。残念でしたー蓮はお前なんて相手にしないし」
「おい、トモ。もうさぁ……」
稲荷寿司から始まった朋久と美波のいつもの言い争いを最初は微笑ましく聞いていた蓮だったが、自分の名前が出て来たあたりでなんだか嫌な予感がし、肘で朋久の脇腹を突っつき、場を収めようとしたが。
「ちょっ、変なこと言わないでよ! お兄ちゃんなんてどうせ女の子ナンパする事しか考えてないくせに!
スケベ! 変態! 女の敵!」
「ふざけんな! 今は蓮一筋だよ!」
「ぶっ」
朋久の台詞で予感的中。
飲んでいた麦茶を吹き出しそうになった。
「はぁ? やだ、何それキモーい。あーそっか。最低男は女に飽きて、今度は男に走ったんだ。やだーやめてよ。蓮君逃げてー」
「なんだと?!」
朋久は、頭に血が上ると余計な発言が多くなる。
「トモっ。ちょっと落ち着けって」
「でもコイツ俺のことバカって言ったし! キモイってゆーんだぜ?!」
「まぁまぁ、ホラ飯食おうよ、な?」
「だってよ、俺すげーがんばってさー、一生懸命さー蓮の為にさぁ!」
やばいとと思い慌てて朋久を制するが、朋久はムキになって聞く耳を持たない。
「それがキモイの。重いの。蓮君巻き込まないでよ。かわいそうだから」
「はぁ?! だいたい俺と蓮はなぁ――」
(ちょっ! お前何言う気だよっ!!)
「あーもう、うるさいっ!! みーもトモも蓮君の誕生会なんだから喧嘩しないの!」
本気でヤバい! と思ったタイミングで、いつまでも終わらない兄妹喧嘩にとうとう朋美が切れた。
「あ……ごめんなさい、蓮君……」
「いや。別に俺は――」
さすが母親。
朋美の一喝でハッとした美波は、蓮を見て真っ赤になってシュンとした。
「……」
しかし妹にバカにされ、釈然としないらしい朋久は拗ねたように口を尖らせたまま。
憮然としながら美波が作ったと言っていた唐揚げを黙々と食べている。
それを見て、蓮は小さくため息を吐くと、
「しかしお前よく作れたな、コレ。難しいんだろ? 本当に美味いよ。母さんのより美味しい気もするし」
朋久の機嫌を取ろうと、稲荷寿司の感想を素直に言った。
母礼子が祖母にこのレシピを教わっていた時、細かい一手間が結構大変で、なかなか同じ味にならないと言っていた。
それなのに、しっかりと味を引き継いでいる。
とても美味しい稲荷寿司だった。
同じ味に間違いないのに、でもなんとなく朋久の稲荷寿司の方が、美味しい気さえするほどに。
「これでいつでも食べられるな」
そう言うと朋久はみるみる笑顔になり、
「そうなんだよ。お前すっげー幸せそうに食ってたからさ、俺が作ってあげられればって思ってさ!」
ついさっきまでの不機嫌極まりない顔から一変、ぱぁっと笑顔になり嬉しそうにそう言った。
機嫌が直ってホッとしたのも束の間、その台詞に思わずドキッとして、口に入っていた稲荷寿司を喉に詰まらせてしまった。
慌てて麦茶を流し込む。
「おい、大丈夫か? そんなに慌てて食べなくてもたくさんあるから〜〜」
蓮が噎せた理由を勘違いした朋久は、ますます笑顔になるが、
「あんたって本当、蓮君の為ならなんだってするのねぇー」
「当たり前じゃん。親友だもん」
「ホント、キッモーい」
しかし、その会話を聞いていた朋美の一言でまた話題が戻ってしまい、そのままは顔が上げられなくなってしまった。
「うるせぇ。お前にはわかんねーよ。俺らの熱い友情はさ」
「なにそれ、マジで怪しいんだけど」
(……もう勘弁してくれ……)
朋久が自分の為に色々してくれるのはありがたいが、言動が「親友」の枠から外れすぎて、それの話題を振られると時々居たたまれなくなる。
蓮は笑って誤魔化すしかなく、そしてこれ以上朋久が余計な事を言わないように、早く話題が通り過ぎますように、と心の中でただ祈るしかなかった。
「でも本当、蓮君みたいないい子が友達でよかったわよ。更正してもらって本当ありがたいわぁ」
「いや……はは。こちらこそ助かってますし……」
実際、親友以上の関係なだけ余計に。
そんなハラハラするサプライズの誕生会はその後1時間ほど続いた。
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