半年振りに会ったアイツは、笑っていた。
あのしまりがなく柔らかい、変わらない大好きな笑顔で。
全国高校野球選手権、県予選会の開会式。
参加する高校球児で溢れている球場の外――この場所で、大和修二はそんな人混みの隙間から、柏圭吾の姿を見つけてしまった。
――俺がどんな思いで、この半年過ごしてきたかもしれないで……っ
視線の先の圭吾を睨みながら、修二は思わず握り拳に力を込めた。
八年間、あの笑顔をすぐ隣で見てきた。
しかし今、圭吾が笑顔を向けているのは自分じゃない。
修二は圭吾の隣にいる、圭吾より頭一つ分くらい背の小さいエースナンバーを付けたピッチャーに視線を移した。
遠くて帽子も被っているのでよく見えないが、顔が小さく目鼻立ちが通った綺麗な顔立ちをしているのはわかった。
――アイツ……。
見覚えがある。
青が基調のユニフォームがとても似合う、顔がきれいな背の小さいピッチャー――間違いない。
約一年前、圭吾と練習試合を見に行った時にいた、あのピッチャーだ。
――あいつが、俺から圭を奪ったんだ……。
ピッチャーは圭吾と楽しそうに何か話しをし、そして笑いながら圭吾のお尻に膝蹴りを入れた。
大げさにリアクションを取りながら、圭吾も大きな口を開けて嬉しそうに笑っていた。
そんな二人の様子を見て、修二は急に胸が締め付けられるような、痛みを覚えた。
――なんだよ。なんなんだよっ。
慌てて目を反らす。
――そこは俺の場所だったのに……
握った拳が小さく震える。
まだ高校に入学して半年。
しかも、一歳上のエースピッチャーに対して、圭吾は高校でピッチャーからコンバートしたばかりの新米キャッチャーだ。
背番号はない。ということはもちろんレギュラーではない。
それなのに、修二は圭吾とあのピッチャーの間にすでに出来上がっているバッテリーの空気を感じた。
――もう圭の中に俺はいないんだ……。
「ヤマト、どうした? そろそろ上動くぞ」
「あ……あぁ」
チームメイトに声をかけられた修二は、慌てて顔を上げた。
グラウンドに降り、入場行進に参加できるのは、背番号をもらった20人まで。
背番号をもらえなかった部員は、外野スタンドで参加となる。
修二はそのスタンド参加組。
チームメイト達がスタンドに向かって動き出しすと、修二はもう一度圭吾のいた方にチラッと視線を向けた。
しかしすでにそこに圭吾の姿はなかった。
その後、スタンドからも時折圭吾の姿を探そうとしたが、見つからなかった。