光と念願の友達になって2週間。
「光君、お疲れ様!」
「あ、豊君」
「明日いよいよ試合だよね。頑張ってね!」
「うん、ありがとー。まぁ俺出れるかわかんないけど」
「エース佐和さんだもんね。でも1年生でベンチ入りはすごいって」
「へへ。実はちょっと緊張してんだ」
ほぼ毎日駅前のコンビニで会い、他愛もない話を交わす。
お菓子がない日も、偶然を装って待ち伏せしていた。
毎日少しずつ話をして、色々光のことを知った。
2歳下の弟がいる兄だって事。
勝手に弟だと思っていたので、それは意外だった。
しかも誕生日が12月2日だって事。
自分は3月生まれなので、こんなに小さい光が3ヶ月ほど歳上なんだと思ったら、なんだか不思議に思えた。
レーズンパンが好きだって事。
偶然作って持っていった日は、いつもキラキラしている目が一層輝いて見えた。
好きな教科は社会で、理由はただ覚えればいいだけでいいから。
嫌いな教科は数学で、とにかくさっぱりわからないらしく、中間は赤点ギリギリだったという事。
数字とにらめっこしながら、頭を抱えている光を想像して、思わず顔がにやけた。
何故か自分の兄である圭吾を、慕っているらしい事。
あんないい加減で頼りない圭吾を、スゴい先輩だよと言ってくれて、なんて素直でいい子なんだろうと思った。
そしてバッテリーを組んでいるという捕手が、光の幼なじみで親友だという事も知った。
「光ーお待たせー」
「あ、悠馬」
「おいっすー。お疲れー」
しかし、コンビニ前で光と話をしている豊の姿を見て、その親友――綾瀬悠馬は、
「……またあんたか」
いつもそう冷たく呟く。
何故か豊に対してとても愛想が悪かった。
「明日頑張れよ。俺応援行くから」
笑顔で声をかけても、
「……ああ」
悠馬はチラッと豊を見上げると、顔色一つ変えずに素っ気なく返事をし、すぐに光に目を向ける。
「光、行くぞ」
「あ、うん。じゃーね!豊くん」
そして豊の存在など気にしていないかのように、光を連れて駅に行ってしまうのだ。
「……う〜〜ん……やっぱ俺嫌われてる?」
電車の時間まで余裕がある時でも、悠馬は豊と光の会話に入ってくることもなく、いつもそっぽを向いて待っている。
はじめは嫌われているのかとも思ったが、そもそも嫌われるような関わりを持った心当たりがない。
豊は人当たりがいい性格の為、たいていの人と仲良くなれるし、そもそも光と会う時にちょっと挨拶を交わす程度しか悠馬と話をしていない。
背は見上げるほど高いけれど、初対面で嫌われるような要素はないと思っている。
光は「悠馬は人見知りっぽいところがあるから」と言っていたが、それにしては何度か顔を合わせてる自分に対し、露骨に避けれている気がしてならない。
光の親友なら仲良くなっておこうと、毎回めげずに笑顔で話しかけているが、2週間が経過しても1mmたりとも悠馬との距離が縮まった気がしない。
「時間をかけるしかないよなぁ」
兄・圭吾も、悠馬はすごい選手には違いないけれど、意外と面白くて可愛い後輩だと言っていた。
確かに下まつげが長くて可愛い顔をしているとは思う。
豊の前ではいつもつまらなそうな表情をしているが、あんな無愛想でも光の親友で、もっとも信頼している女房役なんだから、絶対にいい奴に違いない。
だったら、自分だって悠馬と友達になりたい。
光と好きなものを共有したい。
明日は夏の県大会初戦。
1年である光や悠馬にとっては高校に入って初めての夏だ。
他校だけど、学校を休んで球場に行くことに決めた。
野球をやっている、おそらく輝いて眩しいだろう光の姿を見に。
そしてもっともっと光と、その親友だという悠馬のことを知る為に――。
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