「蓮っ!」
 
 そして勢い良く玄関を開けると、

「え? トモ!」

 イチローを抱いた蓮が、驚いた顔でリビングから飛び出してきた。

「お前、走って来たのかよ。大丈夫か?」

 イチローを離して、蓮が息を切らしている俺に近づいた。

「近いんだし、別にそんな急がなくてもさー」

 呆れたような口調だけれど、電話の声と違いその声には弾みがあった。

「蓮――っ」

 その声に、抑えてきた感情が爆発した。
 蓮の腕を取ると、靴を脱ぎ捨て蓮の部屋に向かった。

「ちょっ、トモ?!」

 戸惑っている蓮を無視して、強引に部屋に連れ込むと、

「何? どうし――」
 
 部屋に入るや否や、振り向いて蓮の口を唇で塞いだ。
 眉を寄せ、蓮は俺を押し返そうと腕を張ろうとするが、両手とも掴んで動きを封じる。

「んっ、ちょっ、んーっ」

 そしてすぐに舌を差し入れると、口腔内を夢中で貪り、深く口付けた。
「ん、は……っ」

 逃げようと顔を背けるが、追いかけて何度も唇を押しつける。
 その度キスの角度が変わり、その間に蓮が熱い吐息を漏らした。
 蓮の抵抗をかわしながらベッドの側まで近づくとキスを止め、蓮をベッドの上に押し倒した。

「ちょっ!」

 腕の動きを蓮の頭上でシーツに押しつけ封じたまま、すぐにその上に乗ると、戸惑う蓮を無視して首筋に唇を寄せた。

「おいっ! トモっ、何だよ! ちょっと待てってっ!」

 顔を背け、足をバタバタし出すが、

「待てねーよっ!」
 
 そう声を上げると、蓮はビクッとして動きを止めた。

「トモ……?」

 もう止められない。止められるわけがない。

「あんな声で寂しいって言われて、これ以上待てるわけねーじゃん! すっげー我慢してたんだぞ」
「ちょ、っトモっ」

 そう言って再び首筋に顔を埋めると、蓮も懲りずにまた足をバタつかせた。


「お前もいい加減認めろよ。この流れでなんで抵抗すんだよっ」

 蓮を組敷いたまま、強く訴える。

「なんでって……」

 蓮は眉を寄せ、目を丸くした潤んだ目で俺を見上げた。

――なんでここで驚くんだよ。どう考えても答えは一つっきゃねーだろ?

「だってお前、俺の事好きだろ? だったら隼人の事忘れられなくても、もう別に構わねーよ」
「ち、ちが……っ」
「違うんだったら、なんで初戦勝った夜、俺を誘ったんだよ」
「それは……」
「好きでもない奴に、自分のモノ触らせて抜かせんのか? キスさせんのか? 舌まで入れさせてさ」
「……っ」

 蓮は言葉に詰まり、顔を背け視線を外した。
 あの日の蓮の行動の理由は俺にもまだわからない。
 でも球場で俺を見つけた時、蓮は微笑んだ。
 俺を見て嬉しそうに笑ったのは確実で、それはどう考えたって、少なからず俺に好意があるとしか思えない。
 もしかしたら今、蓮の中では俺と隼人の間で気持ちが揺れてるのかもしれない。
 だったら、ただ想っているだけの隼人よりも、こんなに近くにいて、躯を触れ合うほど心を許している俺の方に傾いているに決まっている。

「なぁ、じゃぁなんでこんなに簡単に押し倒されんだよ。お前のこと好きだって言ってる俺に、一回襲われかけてるやつに、なんでそんな隙見せんだよ」

 結局蓮は俺を受け入れてるんだ。

「全部俺の自惚れ、勘違いだってゆーんなら、本気で止めろ」
「ちょっ」

 強引にTシャツをたくし上げると、慌てて蓮がその手首を掴む。
 ――が。  

「やるなら最初みたいに腹蹴って追い出せ」

 そう言うと、蓮の手が躊躇うようにゆっくりと力をなくした。

「……トモ、俺……」

 蓮が何かを言いたそうに見つめるが、何も言葉も続かなかった。ただ瞳を揺らしながら俺を見ているだけ。
 でも、わかる。何も言わなくても伝わっている。
 まだ蓮は悩んでいるんだ。
 答えを出すのを躊躇っている。

「本気だから、俺。本気で蓮のこと好きで、もうホントどうしようもねぇんだよ。甲子園行くまでなんて言って、結局我慢できなくてごめん。でも本当にもうこれで最後にする」

 だからこっちで誘導するしかない。答えを出させるしかない。

「お前が欲しいんだ。俺のモノになる気がないなら、蹴っても殴っても止めて。でも、ほんの少しでも俺の事受け入れてくれる気があるなら……黙って手を放して」

 それがたとえ、卑怯な誘導尋問でも。
 そこまで言うと、耳まで赤くした顔を横に向け、蓮は俺の手首を掴んでいたその手をゆっくりと放した。

「蓮……」

 蓮の答えに、嬉しさと安堵で思わず泣きそうになった。
 確信があったとはいえ、本当にあの蓮が俺の気持ちを受け入れてくれるかどうか、不安でいっぱいだった。

「好きだよ、蓮……。本当にマジで好きだから……」

 蓮の答えを受け止めると、俺は精一杯の気持ちを込めて囁いた。
 
次回から18禁描写入ります。
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